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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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 二人は黙ったまま、ベッドに腰掛けていた。


「(このおっさん……もしかして、あたしを抱きにきたのかねぇ)」


 ずいぶんと浮いた考えだが、あのような態度で押し入ったにもかかわらず、彼はなにを口にするでもなく(だんま)りを決め込んでいた。


「あの坊やから聞いたのかい?」

「いや、受付で聞いてきた」

「……ふぅーん」


 情報を漏らすなど、ひどい管理状態のように感じるが、冒険者ギルドはそれを要求するだけの権利を握っていた。

 それを成り立たせているのは《掃除烏》の活躍もあるのだが、最たるはサイガー主導で行われた革新によるものだろう。


 火の国では首都重視、民軽視の方針が顕著に現れているが、それは水の国でも少なからず行われていることだった。

 その圧倒的国土がもたらした必然だが、正規軍を全て投入したところで、国土全域をカバーすることはできない。

 それは以前より問題になっており、既に滅ぼされた町村さえも存在するという状況だ。


 しかし、(くだん)の首都防衛戦以降、ギルドは冒険者を広範囲に展開し、軍の成し得なかった治安維持を代行したのだ。

 これによって、冒険者ギルドは水の国内での影響力を高め、調査権などの権利を獲得した。無論、これは国家公認のものではなく、民が自主的に従っているだけに過ぎない。


 閑話休題、アカリは厄介な壮年男性を追い出すべく、攻勢に転じた。


「なら出てっとくれ」

「……抱けばそれで満足か?」

「はぁ? おっさんの相手はもう飽き飽きさ」

「なら、問題ねぇだろうが。お前は闇の国と連んでいた奴だ、ギルド権限で店主から了承は取っている」

「ははぁ、治安維持の一環ってことですかい?」


 切断者はなにも答えなかった。


「なら、明日にしてくれないかい? あたしゃもう寝るよ」

「雷の国の姫を護衛していた、というのは事実か?」

「もちろん」

「なら、お前は雷の国についているということか?」


 仕事人は僅かに迷った。

 面倒事を避けるのであれば、肯定するのが最善だった。だが、彼女は自身の在り方を(かんが)み、嘘をつくことを是としなかった。


「あたしゃ流れ者さ。一時的に力を貸すことはあっても、どこかの犬になるつもりはないね」

「ならば、奴らの前で口にした内容は嘘だった、と考えていいのか?」

「ま、そういうことさね。っても、雷の国に手を貸していたのは事実だけど」

「ノーブルが引退した、というのは事実か」

「そっちを偽り意味はないっしょ」


 茶化した言いようだったのは気に障ったのか、ウルスは静かな憤りを滲ませた。


「ほんとにほんと。あのチビっ子も言ってたじゃないかい、光の国で会ったって。その時に確認したけど、もう別の人が宰相やってたって話さ」

「……なるほどな、もう年か」


 ウルスは時の流れを如実に感じていた。


「宰相の火打ち石(フリント)の名に覚えはあるか?」

「聞いたこともないねぇ」

「……なるほどな」


 彼はようやく、自分が追われる身ではなくなったことを悟った。


「なにさ、さっきから」

「俺はかつて、暗部に所属していた」

「……なんで生きているんだい?」

「お前こそ、暗部から抜けたんじゃないのか?」


 二人は黙り込んだ。

 その理由は単純明快。二人とも、逃亡した同僚の始末を経験しているからだ。故に、暗部からは逃れられず、永遠に追われるものだと考えていたからだ。

 ウルスの方については、長年逃げ延びた老兵を消した経験があるからこそ、自身もその例外ではないと考えていた。


 確実に殺されるはずの脱退者が、ここに二名も生き延び──そして、それなりに活躍している。これは想像以上に衝撃的な邂逅だった。


「暗部は、変わったのか」

「……あたしが知っている限り、おっさんの時代と変わっちゃいないよ。逃げた人間は殺される」

「なら、ノーブル様が手を打ってくれた、ということか」


 この言葉を聞き、アカリは一つの確信を得た。


「おっさんは爺さんとどんな関係だったんだい?」

「俺を拾ってくれた人だ。そして、俺に技術を叩き込んだ人だ」


 その二つの役割を、彼女の場合は別々の人間が請け負っていた。

 彼女を救い出した先代善大王、そして現宰相であるシナヴァリア。


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