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運ばれてきた肉料理を平らげると、アカリは満足げな表情をしてその場を立ち去ろうとした。
「待てよ」
「チッ、こういうのは引き留めるもんじゃないよ」
「あれだけの情報でエルズ達が金を出すと思っていたの?」
その代金は《掃除烏》ではなく、クオーク個人が持っているわけだが、彼女はそんなことは気にしないとばかりに詰め寄る。
「さすがは魔女さん。見た目は可愛いもんだけど、態度はキツイねぇ」
「答えなさい」
「はぁ、なんであたしの周りには、こういう気の強いガキンチョしかいないのかねぇ」
ヒルトはそこまで気が強いわけではないのだが、彼女からすればライカの存在感が圧倒的なものであるらしい。
改めて席に座り直すと、「さぁさぁ、聞いてくださいな」と余裕を持った態度で問いを待った。
「奴らが帰った話から続けろ」
「はいはい。あたしが連中を運んだのはヴァーカンさね。知ってるかい、ヴァーカン」
「火の国の……カーディナルの近くだったか」
「そういうワケ。あんな崖っぷちから上陸して、瀕死寸前の連中を引き取ったっていうんだから、あたしも驚いたものさ」
この段階で──いや、第五部隊を連れ帰ったと聞いた時点で、エルズは記憶に存在する場面と重ね合わせていた。
「……話にならねぇな。あんな場所を登ってくるのもそうだが、闇の国が救援を寄越すなんて話を信じろってのが無理だ」
「なんなら、敵地まで向かってみればいいんじゃないかい? そうすりゃあたしが嘘をついていないことが分かるってもんさ──そうそう、火と水と雷が合同で敵地に攻め込もうとしてるって話もあるくらいさ、それに参加すりゃ……」
「おい魔女、こいつを調べろ」
「その必要はないわ」
切断者は──アカリさえも、怪訝そうな顔をした。
「ヴァーカンにいたのは第一部隊……でしょう?」
「へぇ、チビっ子はそこまで知ってるのかい」
「ええ、カッサード隊長なら崖登りくらいも容易いわ」
クオークは彼女が元諜報部隊であることを思いだし、それを根拠としたのだと判断した。
しかし、だとすれば証拠としては少々弱いものがあった。
「で、でも……そんな人達がいるとは限らないんじゃ」
「エルズは──《カルマ騎士隊》はヴァーカンで彼らと交戦したのよ?」
そう、彼女は実力を考慮した上で、あの場では放置という形で解決を見送らせた。
その結果、敵を生きて帰してしまったというのは、彼女としてもなかなかに歯がゆいものだった。
「ま、そういうことさね」
「っていうなら、お前はここに何の用事がある」
「旅に文句を付けられても困るんだがねぇ。それに、今さっき言ったばかりじゃないかい」
クオークとエルズは顔を見合わせ、首を傾げるが、ウルスだけは呆れたような仕草を見せていた。
「敵地襲撃作戦に組み込まれないように、適当に時間を潰してるってことか」
「そっ。いろんな国との合同作戦なんて、あたしら《選ばれし三柱》には合わないからねぇ」
「それは同感だ」
先ほどの戦いを見れば分かる通り、常人のそれを遙かに上回る力を持つ者、というのは集団行動を大きく乱す。
《星》の二人はそれを度外視してもなお、有り余るほどの利をもたらす為に採用されているが、彼ら彼女らではその役には及ばない。
話すだけ話したと言わんばかりに、アカリは席を立ち、若い冒険者の前に向かった。
「お誘いありがと。何なら二人っきりでデートしてもいいけど、どうするかい?」
「えっ?」
「宿も同じだし、用があったら来てもいいって言ってんだよ」
話を理解していない様子のクオークを愉快に思ったのか、彼女は彼の耳元で何かをささやいた。
それを聞いた瞬間、彼は顔を真っ赤にし、浅座りに切り替えた。
「なっ──そんなつもりじゃ!」
「カッカッカ、純朴少年をからかうのもおもしろいもんだねぇ」
「ふ、ふざけないでください!」
「クオーク、教育に悪いから行くなら夜にしておけ」
「なっ、ウルスさんまで!」
茶化し終わり、満足した仕事人は赤い髪を揺らしながら、彼らに背を向けた。
「それと、あたしが行かないのは面倒だからじゃないよ──連中と戦うのは、割に合わないってことさ」
「……ああ、全くだな」
それだけ言い残すと、彼女は未練もなくその場を立ち去った。
「どういうこと?」エルズは質問する。
「闇の国の連中には、俺達の想像する以上にヤバイ奴がいるってことだ」
そう言いながら彼が思い浮かべたのは、炎の壁を走り抜けた若き隊長の姿だった。




