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──水の国、都市エイツオーにて……。
三人の冒険者は宿屋の一室に集まり、顔を見合わせていた。
「ったく、いつ終わるか分かったもんじゃねえな」
「全くね」
「でも、闇の国の人達は減っているので、気が楽になってきました」
二人は青年冒険者に視線を向けた後、呆れたような態度を取った。
まるでフィアと善大王のそれを思わせるが、彼の場合はどうしてそのような反応が来るのかを分かっているだけに、申し訳なさそうな顔をする。
「俺からすりゃ、簡単に焼き払える人間の方が楽なんだがな」
「同感ね。大型が出ようものなら、全部エルズ達に投げられる……そんな状況がいいとは思えないわ」
ずいぶんな物言いだが、彼らは今現在の冒険者ギルドにおける、最強パーティなのだ。
《紅蓮の切断者》と《幻惑の魔女》、この二人は単騎でも鈍色の個体を撃退できる強者であり、それに見劣りこそするがクオークも数少ない天属性使いだ。
あまりの強さから、彼らはもっぱら魔物退治の専門家のような扱いとなり、厄介事を処理する便利屋として認知されはじめていたのだ。
とはいえ、この強者を一所に集めたパーティに不満を言う者はいなかった。
普通であれば、これを配分するように要求するところではあるが、それをエルズが防いでいたのだ。
ギルドの与える悪名がもたらす効果は、如何に上位ランクの冒険者とて無視できるものではない。教会の悪徳を信者が行えないのと同じだ。
エルズを一人にすれば、なにをするか分からない。だからといって引き取りは御免だと、皆が切断者に丸投げしているのだ。
事実、彼女に匹敵する実力を持つウルスだからこそ、今に至るまで問題は起きていない。それは力で押さえつけているという点もあるが、彼が立場を読み違えていないからだろう。
このパーティにおいて、上下関係は存在していない。それはウルスが最初に述べた通り、この集まりが厄介者の寄せ集めということを全員が理解しているからだ。
それぞれがある一定のルールのもとに、好き勝手な行動を取るという体制こそ、一騎当千の《選ばれし三柱》に適していることを理解していたのだろう。
「それはそうと──あれの正体は掴めたの?」
「……どうなんだ、クオーク」
彼らがこのエイツオーに来た理由は、慢性的な戦力不足が原因──でもあるのだが、本命は謎の現象について調べる為だった。
ミスティルフォード全域に渡って発生した、謎の圧迫現象。
事情を知らない多く者は、この現象について様々な推測を行っていた。
その多くを占めるのが、今までの魔物以上に強力な個体が現れたというもの。それに次ぐのが、ダークメアがその力を見せつけ、恐怖心を与えることだった。
ただ、前者はともかく後者については怪しいところで、闇の国はそれらしい発表を行っていない。宣戦布告の際に利用された力を用いることで、その原因が誰にあるかを知らせることができるにもかかわらず。
よって、今の主流は強力な魔物の出現ということになっている──のだが、これは推論でしかなく、事実はあやふやなままである。
……と、いう経緯があった為に、彼らはこの都市で聞き込みを行っていたわけである。会話の内容からするに、二人は収穫なしで帰ってきたようだ。
「正体については、やはりどこも同じようで」
「使えないわね」
何の配慮もないエルズの言葉に、クオークは落ち込んでしまう。しかし、それはすぐさま解除され、続く言葉があるかのように口を開いた。
「ですが、あの現象が大陸外でも発生している、ということは分かりました」
「大陸外だと? ケースト大陸のほうでも起きてるってことか?」
「はい」
「どこ情報よ。エルズは洗脳して回ったけど、一人もそんなこと知らなかったわ」
平然と恐ろしいことが告げられたが、誰も反応はしない。それは若き冒険者にも当てはまることで、今に至るまでに幾度もこうした場面を見てきたことがよく分かった。
ティアという理性を失い、エルズは躊躇いなく神器の力を利用するようになった。ただ、それで問題は起こしていないのだから、ウルスの保護は大いに効果を発揮しているといえる。
「向こうとの連絡が今もなお残っている、数少ない場所……教会ですよ」




