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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
78/1603

5

 近くの山を登り、フィアはある地点に到達した時点で空を眺める。

天は橙色に染まりだし、遠くに見える首都には光が灯り始めていた。エネルギーが無尽蔵にあるだけあり、早い時間から明かりを使えるのだ。


「明日にまでは見つけないと!」


 休憩しようとしていたが、善大王のことを思い出してか、フィアは奮起して歩きだした。

 汗が額をつたり、金色の髪を湿らせる。白い肌は僅かに紅潮し、疲れから息は乱れ出す。


「(絶対、ライトと仲直りするんだから……絶対に……)」


 刹那、フィアの脳裏で手を差し伸べてくる、今よりも若い善大王の姿が映り込んだ。


「(私を助けてくれたのは、他でもない。ライトなんだから……だから、私だって)」


 何度も願い続けた再会。出会えた人が変わっていたとしても、フィアからすれば喜ばしいことだったのだろう。

 歩き、進み、走り、転げながらも走り続ける。どこにあるかは大体しか分からない、それでも彼女は一度触れた手を求めるように、無我夢中で走った。

 疲れ果て、地面に座りこむ。夕日すらも沈み、周囲は薄暗くなりはじめていた。

 フィアは一度呼吸を置いた後、《魔導式》を展開する。

 踵で地面を叩き、術を起動した。それと同時に橙色の球体が出現し、周囲が明るくなる。天ノ二番・(ソル)だ。


「はぁっ……まだ、見つからないのかな」


 エターナルフラワーは枯れることがない花だ。マナの量が多い土地に少しだけ存在している希少種、ということで高値取引されている。

 枯れない理由は栄養の代わりにマナを吸収しているからであり、花の大半をマナが占めるようになっているからだ。

 そして、今フィアが探しているのはエターナルフラワーの中でも、光属性のマナを吸った種類。別名、エターナルグロウだ。

 それは光マナを吸っているからこそ、発光能力を有している。つまり、暗闇の中でも見つけられるのだ。

 フィアとしては一日かけてでも見つけ出し、それを使って善大王と仲直りしようという目論見だ。花言葉などはないので、文字通り話す理由としての要素しかない。

 一度呼吸を整え、フィアは自分の身に纏っている服を検めた。

 善大王から貰った服。自分と善大王を繋ぐ、唯一といってもいいもの。

 フィアは服を軽く抱き、善大王の温もりを求めた。もちろん、無機物の服がそれに応えるわけがない。

 ゆっくりと立ち上がり、フィアは再び歩き出そうとした。


「よし、絶対に見つけて――」


 瞬間、天地が逆転する。


「えっ」


 しかし、それはフィアだけに起きている現象。実際は、フィアが蔓で吊りあげられ、逆さまになっていたのだ。


「(やっちゃった……《星霊》に気付けなかった)」


 《魔導式》を展開しようとするが、予想を上回る疲労、善大王との不仲で生まれた心の不安定感が影響し、構築していく速度が低下していた。

 それだけならばまだ良かったのだが、フィアは違和感を覚えた。それに合わせて《魔導式》は自壊する。


「(力が……吸われている?)」


 一度目を閉じたフィアは冷静になり、自分の吊り下げているのが、ソルプラントだということに気付いた。

 火の国で言うヘルドラゴ、《風の大山脈》で言う風翼獣。所謂《星霊》の中でも上位に入ってくる種だ。

 ハエトリグサのような顔を持ち、無数の蔓が茎のような体から伸びている。

 栄養は光属性マナであり、主となる補給源は太陽の光と地面から吸い上げる栄養だ。生物というよりかは植物に近い生態だが、一応は生物として認識されている。

 その知識を即席で頭に叩きこんだフィアだが、状況がまずいことに気付いた。

 体内にあるソウルを吸いこむスピードがあまりにも早すぎる。巫女であるからして、力が尽きることはまずあり得ないが、体内が著しい変化に襲われているので安定が得られない。

 《魔導式》は熟練の使い手でも少しは集中しなければならない。意識が乱れれば速度が遅れ、ソウルが揺らめけば構築すら困難になる。


「(このままじゃ、一生……この《星霊》の栄養源になっちゃう)」


 大きく深呼吸をしたフィアは脱力した。

 この状況を打開する方法は存在していた。ただ、それを取れば、高い代償を支払うこととなる。


「私は絶対、ライトと仲直りする!」


 覚悟が決まった瞬間、フィアの体から橙色の光が放たれた。

 途端、フィアは奇妙な感覚を覚える。異質な浮遊感、まるで宙に浮いているかのような。


「……って、落ちてる!?」


 地面を見たフィアは卒倒しかける。ソウルも未だに安定しきっていない、《魔技》を発動するだけの機転を働かせることもできない。

 恐怖に支配され、目を閉じた瞬間、優しい感覚が彼女の体を包み込んだ。


「悪い、遅れた」


 フィアの耳には、ソルプラントの呻きは届いていなかった。


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