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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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「な、なんのことだし」


 当人は気づいていないが、この場には明らかな異常事態が発生していた。


「この空間で《魔導式》が使えたのは、今回が初めてではなくて?」

「……あっ、確かに」

「わたくし達がこうして到達した時点で、どうにも修復が始まっていたみたいですわ」

「《星》の力ってこと?」

「さぁ、どうでしょうね。ということで、わたくし達の出番はありませんわ」


 納得しかけたライカだったが、さすがの彼女もただの馬鹿ではなかった。


「っちょ、ちょっと待つし! ならなんでアタシが術を説明する羽目になったんだし!」

「……フフッ、せっかくですので手札を確認させていただきましたの」

「なっ──テメーやっぱりここで殺す!」

「時間ですわ」


 殴りかかろうとしたライカだったが、攻撃が命中する前にこの世界からはじき出された。


 そして、一人になったライムはゆっくりと歩みを進め、倒れ込んだフィアの傍で屈み込む。

 眠ったままの姫の頬に触れると、語りかけるような口調で話し始めた。


「ライカちゃんに感謝しますのよ? 彼女がここを見つけられていなければ、《天の星》がしばらく舞台から消えることになっていましたわ」


 眠っているフィアはなにも答えないが、彼女は満足げな表情を浮かべる。


「……んっ」

「あら、お目覚めになりまして?」

「…………?」


 フィアは幾度も(まばた)きをした後、目の前の存在に驚き、咄嗟にその場を離れようとした。

 しかし、体勢が体勢とあって、腰が抜けた状態のような動きでしか逃げられない。


「な、なんでライムが」

「少し前にはライカちゃんもいましたわ」

「えっ、そうなの?」


 まるで全てを忘れてしまったかのように、寝ぼけ姫は間抜けな反応をした。


「さて、フィアちゃんには聞いておきたいことがありますの」

「な、なに……?」

「こんな風になった理由、お聞かせいただけますの?」


 彼女が指さす方向をみたフィアは、言葉を失った。


「……ここ、どこ?」

「フィアちゃんが作り出すことのできる空間ですわ」

「えっ、でもこんな風にした覚えなんて……」

「以前の変化は、フィアちゃんの仕業でしたの?」

「あれは……気づいたらそうなってて」

「フフッ、責めているわけではありませんの。ただ、確認をしておきたかっただけですわ」


 対人恐怖症姫の対応を見て、ライムはすぐさま彼女が怯えているのだと察した。

 いくら人慣れしたとはいえ、こうして叱責(しっせき)されると彼女は弱いのだ。


「つまり、何か悪いことがあったということですわね?」

「なんで……分かるの」

「以前の変化は善大王様──いえ、ライト様と出会った時でしたわ」


 その発言はミネアのものと符合している。

 時期からいえば、善大王が聖堂騎士となった頃であり、フィアが現実にも王子様がいると考え始めた頃だった。


「ライト……ライト?」

「あら、フィアちゃん専用の呼び名ですの? でしたら、わたくしは控えさせていただきますが」

「……ライト?」


 フィアの脳裏に、善大王が自分を庇って倒れた場面が蘇り、彼女は頭を振った。

 しかし、思考はとどまることを知らず、時間を追う毎に鮮明になっていく。


「ライトは……殺されちゃった? 嘘……そんなこと」

「なるほど、トニー様はそこまで(おこな)ってしまいましたのね。それでフィアちゃんは──」

「やだ、やだよぉぉ……ライト死んじゃうなんてやだよぉぉぉ」


 彼女は泣き出すが、今度は先ほどのように力があふれ出すこともなく、ただ泣きじゃくる子供と差はなかった。

 そんなフィアを見ていたライムは──別段気にしている様子もなく、飄々とした様で彼女を見ていた。


「ねぇライム! そんなことないよね? ただの夢だよね」

「……断言はできませんが、事実ですわ。あの方であれば、善大王様を殺すことも容易いことでしょう」


 火に油を注ぐような発言だが、フィアは耳を塞ぎ、これを聞こうとしなかった。


「ライトは死なないもん。ライトが死ぬくらいだったら──」

「死ぬくらいでしたら?」

「……もう、ここから出て行かない」


 それまで余裕を持っていたライムだが、これは予想外だったらしく、驚いたような顔を見せた。


「それで、いいんですの?」

「うん……それでいい」

「なにも解決しませんが、それでも?」

「もう知らない。関係ないもん」


 フィアの精神は退行していた。引きこもり姫と呼ばれた当時の如く、ただひたすらに逃避しようとしている。

 そこに破壊欲求や破滅的な思考はなく、ただ単純に思考を停止させていた。


「……」


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