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咄嗟に《魔導式》を展開しようとするが、この空間内で戦闘を行うことはできない。そもそも、導力の放出さえできない。
「御挨拶ですわね。それとも、独り言のつもりでしたの?」
「……なんでアンタがこんなところにいるし」ライカは振り返りながら言う。
「それはこちらの台詞ですわ。ライカちゃんこそ、どうやってここに辿りつきましたの?」
互いに手札は晒さないつもりらしく、そこで会話は途切れた。
それ以上に、この二人には因縁があった。
ライカからすれば、目の前の少女は敵国の味方をする悪者なのだ。ほかの《星》はその確証を得ていないが、彼女だけは本人からそれを聞いている。
「アンタの仕業?」
「まさか、わたくしもフィアちゃんにこんな力が残っていたなんて、夢にも思いませんでしたわ」
「……闇の国の仕業?」
「ある意味はそうかもしれませんわね。あなた方の敵がフィアちゃんと交戦し、その結果このような事態になった──と、わたくしは考えておりますわ」
組織の名前は出さず、それらしい言い方でこの場を凌いだ。
「改めて聞くし、どうやってここに来たわけ?」
「……人にだけ言わせるつもりでして?」
「質問してるのはこっちだし!」
馬鹿にはつき合えない、とでも言いたげに肩を竦めた後、ライムは口を開いた。
「ライカちゃんが入れたからこそ、わたくしも入ることができましたのよ?」
「は? 馬鹿にしてんの?」
「そんなまさか。わたくしはお馬鹿ですので、ライカちゃんのような天才と違って、方法を見つけることができなかったということですわ」
ただの謙遜なのだが、ライカは「ほめてもなにもでないし」と本気で受け取っていた。
「誰も知らないことを見つけるのは、なによりも難しいことですのよ? そして、見つかりさえすれば、それを真似ることは簡単ですわ──それこそ、馬鹿でもできることですわね」
「なにわかんないこと言ってるし!」
「大陸発見を成した初代フォルティス王。彼の残した航海記録によって、大陸に辿りつくことは容易になりましたわ」
「え?」
「初代ラグーン王。彼は王族に独占されていた《魔導式》を広め、通信術式という新たな技術を作り出しましたわ」
「な、なんのことを──」
「ビフレスト王は属性を発見し、ライトロード王は《秘術》の片鱗を知り、フレイア王は《超常能力》に発現しましたわ」
彼女が述べたのは、歴史上に存在する初代王達の功績だった。
歴史を多少学べば分かることだが、勉強どころか絵本さえ読まなかったライカは全く分からないといった様子で、それまでの勢いを奪われている。
「……何かを初めて行う人間は、非常に偉大であるということですのよ。ただ、わたくし達《星》からすれば、そこまで関わりのあることではありませんわね」
「??」
彼女の言いたいことはおそらく、どのような偉業であっても、発見と周知さえすれば誰でも真似できるということだ。ただし、これは彼女が最初に言ったことと同じである。
《魔導式》や通信術式、大陸間航海、これらは今や限定された人間の特権ではなく、多くの者が当たり前のように利用する技術である──という例を出したつもりが、ライカが無学であった為に事態を余計に混乱させてしまった、という流れだろう。
──そして、《星》にとって無関係というのは、彼女達が遙か古からそれらの技術を利用していたことを指しているのだろう。




