生か死か、審判の光
──荒廃した地にて……。
意識を強制接続したライカは、その光景を目にした途端、強い吐き気を覚えた。
吐瀉することで不快感を取り除こうとするが、意識の空間でしかない為、吐瀉物どころか分泌液さえ出てこない。
目に見える景色はミネアが恐れていた、七つに分かたれた断崖に近く、ライカが思い出すことのできる風景でしかなかった。
ただし、彼女が想起したのは場面だ。その当時にはこれをみるだけの感覚が育ってはおらず、理解さえできなかったのだ。
その理解不明こそが、黒いなにかとして記憶されていた。
ただし、それは別段おかしいことではない。普通の人間であっても、理解できない情報は無意識に遮断され、記憶領域にさえ残らずに消え去る。
彼女の場合は、その理解できないものさえも何かに見えるからこそ、異様な場面として記憶されていたにすぎない。
今は違う。ここは違う。
感じ取るだけの経験や技術を得たライカには、真実の情報が観測できてしまうのだ。似たような場面であっても、それに覚える感想は大きく乖離したものとなる。
「破滅……なにもかもを終わらせる何かがある」
現実で感じたそれを遙かに上回る恐怖が彼女の体に浸透し、震えや吐き気が止まらなくなる。
幾度と魔物と対峙し、それを打ち破ってきた彼女でさえ、この感情を抑えることができなかった。
「(これはフィアなの? それとも、アタシの術が失敗したの? ……死ぬって、こういうことなのかな)」
刹那、彼女は自身を客観的に見た。
「(……死ぬ? 死ぬほど苦しいけど、アタシはまだ生きてるし。動けないくらい痛いけど、まだ生きている──生きているなら、アイツみたいに動けるはずだし!)」
客観的な視点と、過去に見た画像が重なった。
いつ死んでもおかしくない状態にありながらも──圧倒的不利な状況であったにもかかわらず、その男が彼女に立ち向かった。
それが決して不可能ではないと分かったからか、彼女は恐怖をほんの僅かにだが、確かに押しのけた。
途端に視界が広がり、再び荒廃した大地が目に映る。
「(……フィアがいる?)」
目をこするが、その姿は消えなかった。別の感覚で捉えたわけではなく、肉眼でフィアの存在を発見したのだ。
しかし、皮肉な話である。いまの彼女にはそれまで見えていた何かが見えていないのだ。
過去に無茶をした男を思い出すことで、彼女は目の前の現実を視界から消し去ったのだ。それによって、隠れていたフィアの姿が見えるようになった。
走って近づいた後、彼女の体を触る。幸いながら、この空間内ではある程度の感触は存在している。
その結果、倒れてはいるが生命活動が続いている、という事実を知ることができた。
「フィアは生きている……でも、誰がこんなことを?」
「それはわたくしにも分かりかねますわ」
 




