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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
770/1603

19

 自由になった右手はトニーに向けられ、その掌からは無数の光糸が伸びていく。三連続の驚愕がこの一動作(・・・)分の時間を稼いだのだ。


「いっけえええええ!」


 フィアは叫ぶが、善大王は舌打ちをする。

 あれだけ怒濤の攻めをしたにもかかわらず、この怪物が迷ったのは、心臓が一度鼓動を刻む時間にも満たなかった。

 三本目の糸が放出された時点で、彼の体は回避態勢を取っており、一本目が到達する寸前には吸血鬼は空中に逃れていた。


「逃がすかッ!」


 無論、それで攻撃が終了するはずもなく、無数の正エネルギーは世界の異物を追跡していく。

 速度は互角。しかし対象を捉えていない光糸は消えることなく、世界を白に染め上げていった。


「(森の掌握にはあと少し……奴の足場を全て掌握すれば、それで終わりだ)」

「(あれほどまでの力、何の代償もないとは思えない。彼が私を捉えるのが先か、それとも私が消し去られるのが先か)」


「「(次の一手で全てが決ま──)」」


 二人の読みは正しかった。あと一手で、どちらかが詰みとなっていた。

 しかし、吸血鬼は枝を足場にした跳躍に失敗し、地面へと落下していく。

 それと同時に、《皇》の張り巡らせていた白の結界は崩壊し、トニーを残して消え去った。


 地面に叩きつけられ、胸を()(むし)る吸血鬼。

 地面で頭を抱え、のたうち回る善大王。

 二人の強者は戦闘とは直接関係のない要因によって苦しみ、同時に戦闘不能に陥った。


「ライト……まさか!」


 善大王の苦しむ理由にはアテがあったらしく、彼女は彼の元へと駆け寄った。


「ライト! ライト!」

「がぁああああああ! うるさい! うるさいッ! 黙れェッ!」


 苦悶に喘ぐ恋人を見下ろしながら、フィアは絶望しきったような顔をした。


「私はここにいるよ! ライト……ライトっ!」


 幾度も呼びかけるが、彼女に対して何らかの反応を示すことはなかった。苦しみの(とりこ)となり、その渦中(かちゅう)から抜け出すこともできない。


「は……はは、どうやら、あの力は想像以上に使用者を蝕むらしい……な」


 フィアは声の聞こえてきた方向に振り向いた。

 彼女の視線の先に立っていたのは、悶絶していたはずのトニーだった。


 しかし、彼とて十全(じゅうぜん)とはほど遠い様子で、狂気によって意識を保っているような状態だった。

 《天の星》は両手を広げ、善大王を守ろうとした。小さな体では全てを遮りきれないが、それでも彼女はそうせずにはいられなかった。


「はは……はははは! 誇り高き吸血鬼の前に立ちふさがるか? ただの人間風情が──生命にも満たない雑種風情がッ!」

「私は人ですらないの。出自(しゅつじ)が違うだけで、あなたと大きく変わりはないの──ただの化け物」

「化け物だと……? 高潔な吸血鬼が化け物だと!?」


 彼女は冷静だった。恐怖さえなく、震えることもなく、自分を化け物と言ってのけた。

 それはある種の暗示だった。善大王を守る為に、自分を人間ではない存在だと言って奮起させているのだ。


 そして、既に冷静さを欠いている吸血鬼を憤らせることで、罠にはめようとした。


「その穢らわしい身を引き裂き、食い散らしてやる」


 もはや、ただの化け物となったトニーはフィアに向かって直進していく。荒々しく、獣のように。

 その速度は彼女の予想を遙かに上回り、詠唱を行う時間さえなかった。



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