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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
767/1603

16

 猛烈な口撃を受けながらも、善大王の精神は揺らいでいなかった。冷静に状況を分析し、現状の打開に務める──それこそが特異な能力を持たない彼の生存技術だった。


「(先ほどまでの焦りは間違いなく本物だ。だとすれば、これは挑発──奴としても半々の賭けといったところか)」


 あの場で神器を取り出したことで、少なからず善大王の判断は鈍り、石を拾ったという動作を見逃した。

 そこからは転がるようにフィアが戦闘不能に陥り、こうして距離を詰められている。


「(……いや、待て。こいつはどうして俺に攻撃を仕掛けない? 奴ならフィアが倒れた時点で俺を一方的に殺せるはずだ──それをしないのは……)」


 ここで彼は二つの予測に辿りついた。

 一つはハッタリが通用しており、彼一人であっても先の攻防のような真似ができる……と考えられているという線。

 ただ、こちらはかなり怪しいところである。フィアの能力を知っていれば、必然的に観測手が彼女であると分かるはずだ。


「(つまり、奴の狙いは俺に神器を奪わせること。すぐに決着をつけず、追いつめるようなやり方をしているのは……そうする以外に逆転の道がないと思わせる為)」


 適正を持たない人間が神器を使用した際に発生する現象を、彼はよく知っていた。

 暴走──そして、圧倒的な力の享受(きょうじゅ)。その過程で精神が食われるとはいえ、力が得られるのは間違いない。


「(俺を暴走させ、そのまま放置することで同盟を破壊するのが目的か。なるほど、この場で俺とフィアを殺す以上の利益が得られるな)」


 客観的に推理した後、彼は大きく息を吸った。


「ああ、俺はフィアがダメな奴と考えている。組織が管理する世界では生きていけないと思った。だがな、あいつは確かに成長している。そして、あいつが自分の力で生きていけるようにするのが、俺の役目だ」


 その言葉の後、彼は走り出した。

 この突進を待っていたとばかりに、トニーは速度を増し、剣を持たない手を武器とした。


「(まだ対応できる速度だ。だが、奴も簡単には譲っちゃくれないみたいだな)」


 両者が衝突する刹那、善大王は急停止し、前方に導力の盾を発生させた。

 タイミングをずらされた吸血鬼は善大王がいたはずの場所──光の盾に向かって、突きを放つ。

 指先から煙があがった瞬間、咄嗟に腰をくの字に曲げることで直撃を防ぎ、後方へと逃れようとした。

 その体勢は予測したものと違っていたが、彼からすれば同じことだった。

 すぐさま放出を解除し、剣の腹に向かって激しい掌打(しょうだ)を打ち込む。


 緊急回避で逃れようとしていたトニーの体は力が抜けており、この一撃で剣は地面に転がった。


「神器を使うつもりか……? それは選ばれた者でなければ使うことはできない」

「ああ、使うと精神が食われるからな。だが、使えないってのはちょっと違うんじゃないか?」


 彼は地面に落ちた黒の剣を蹴り、自分の手元に導いた。


「暴走すると分かりながらも使うか」

「……正の力と負の力。これは感情に等しく、負に取り込まれれば破壊欲求が止めどなく押し寄せる」

「……?」

「フィアがかるーく説明してくれた正と負の意味だ。つまるところ、こういうことだって──できるはずだッ!」


 剣を握ったその手は、右手だった。


「《救世(セイヴァーリパルス)》」


 紋章が輝き、白い光の糸が黒い剣に絡みついていく。


「《皇の力》による神器の制御だと!?」

「どうにも、これは予想外だったらしいな」


 次々と糸が巻き付いていくが、それは魔物と接触するのと同じように消滅していく。ただ、消滅の速度を発生スピードが上回っていた。


「(流れ込む負の力を消し去っている、ってところか? しかし、この様子じゃあ相当な速度で流し込まれていたみたいだな)」


 他人事のように観察した後、彼は剣を一振りすると、本来の所有者だった吸血鬼に切っ先を向けた。


「さ、これで形勢逆転だな」


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