3β
「探知式に引っかからない? 除外はしてあるが、履歴は残っているだろう?」
「それが……」
記録を確認するが、言葉の通りにまったく残っていない。
「(フィアの奴……探知に引っかからないようにしてやがるな)」
しかし、そこまで考えて行動するだろうか、という答えに辿りつく。だとすれば、必然的に向かう場所は限られた。
「《光の門》……か」
善大王は部屋を後にすると、執務室に向かった。
机の引き出しを開け、釘の納められたベルトを握る。
「(記憶の遺跡……あそこに封印しておくべきか)」
記憶の遺跡、それは《光の門》内部に存在する封印施設。厳重な封印式が刻まれており、進入することは困難。
そもそも、《光の門》自体が正規の道筋を辿れるのか不明の土地だけあり、ここに封印すれば大抵の場合は取り出すことが不可能となる。
神器の存在に対して恐怖感を抱いていた善大王なだけに、この決定は早い方がいいと考えてはいたらしい。
少し前に危ない目にあったばかりだが、それでも狙った場所に到着はできた。今回も大丈夫だ、と幾つもの補強を加え、善大王は《光の門》へと足を踏み入れた。
瞬間、凄まじい酩酊感が襲いかかり、意識が飛びかける。それでも善大王は意識を持ち、知らされていた場所へと歩みを進めていく。
次第に意識が歪み、視覚情報が滅茶苦茶になっていった。
縋るように壁へと倒れ込み、体を擦りながらも前に進む。
すると……。
「あれ、なんでこんなところにいるの?」
「アルマ……ちゃん?」
アルマが善大王の手に触れた瞬間、彼の意識は覚醒した。
「あれ、俺は……」
「ここ、危ないよ」
「アルマちゃんは大丈夫なの?」
「うん、あたしは大丈夫。それで、どうしてここにいたの?」
問われ、善大王は目的を思い出す。
「フィアを探していたんだ。いるなら、ここかと思って」
「ここじゃないよ! あたしも探してみたけど、いなかったし」
「そうか……」
善大王は肩を落としたが、すぐアルマに向かい合う。「じゃあ、封印の遺跡まで案内してくれないかな?」
そう言い、持ってきていた神器をアルマに見せた。
すると、アルマは顔を青ざめさせ、困惑しながらも善大王に話しかける。
「これ……なんで、善大王さんが?」
「ムーアって奴が言ってたんだよ、俺がこれを使っていたって。それで、これは危ないものってことも追加で聞いていたから、封印していた方がいいかなって」
「……ねぇ、ディックさんはどうしたの?」
「あいつなら、たぶん闇の国だと思うぞ。なかなか帰ってこないから心配だが」
「そう……なんだ。うん、じゃあ案内するよ」
アルマは巫女であるからか、神器の危険性については気付いているような素振りを見せている。もしも気付いていなければ、すぐにフィアを探しに行くように促していただろう。
善大王はアルマに手を引かれ、道を進んでいく。その間、奇妙な違和感は一切襲いかからず、快適な道を歩むこととなった。
そして、二人は巨大な扉の前で立ち止る。
「黄色の宝石……って、このサイズとかとんでもない値段がしそうだな」
城の入り口程の大きさをした扉は、一切のヒビがない黄色の宝石で作られていた。彼の言った通り、このような物が流通すれば恐ろしい値段になることは間違いない。
「……よし、いこっか」
アルマが合図を出した途端、扉は完全に消滅した。
「この消え方……マナクリスタルだったのか」
自然のエネルギー、マナ。それが凝固することによって生まれるのがマナクリスタル。
術の触媒に使われるのが主な用途だが、その本質は未だに解析されきっていない。そもそも、人間が一切手を加えることができないマナの時点で、当然の結果といえる。
善大王の視界に広がったのは、天井にまで逆さ階段などが付いている奇妙な迷宮だった。
「悪趣味だな……」
「じゃ、神器はあたしが封印してくるね」
「いや、俺も行くよ」
「善大王さんはフィアちゃんを早く見つけてあげて! こっちはあたし一人でも大丈夫だから」
確かにそうなのだが、と言いかけた善大王だが、すぐに目的をはっきりとさせた。
「でも、帰れるかなぁ……」
「大丈夫。外に出ていくっていう意識を持っていけば、ちゃんと出られるはずだよ」
そんな方法があったのか、と善大王は納得した。
かつて、クラークとの戦いの後、彼は光の門を破壊しながら脱出した。自動修復機能があるので問題ではないのだが、それはかなり剛力な解決方法であることは否めない。
「じゃあ、頼むね」
「善大王さんこそ、フィアちゃんをお願い」