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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
759/1603

 主に促された吸血鬼は組織としては致命的な、別の意味で最重要な情報を語り始めた。


「魔物の襲撃、それに際して二人の《選ばれし三柱(トリニティア)》と遭遇しました」

「ったく、魔物も気が利かねぇな。オレが個人的に入れ込んでいるというだけに、襲うなとも言えねぇのが原因だが」


 魔物に襲われた場所、というのはこの戦時中では珍しいことでもなく、事情に通じてはいない会長は確信に至る情報を得られなかった。


「戦力支援については必要だとは思いますが、今までに送った兵の一部が──いえ、大多数が長に崇拝に近い感情を抱いているように思われましたが」

「あまり望ましくはねぇが、それがどうという話だ。組織に反抗しようものなら、奴の正体を世界に知らしめるだけだ──それは奴とて理解の上だとは思うがな」

「……お聞きするべきか迷ったのですが、スタンレーは黒様の命でかの地に送られたのですか?」

「あいつのことはわからねぇな。偶然か、それともオレの狙いに気付いてやがンのか──盗賊ギルドも、あのお人好しなら懐柔(かいじゅう)できると踏んだのかもしれねぇな」


 この時点で、クラフォードは気付いてしまった。

 盗賊ギルド、《秘匿の司書》ことスタンレー、お人好しな長、特に大きな魔物の襲撃、《選ばれし三柱(トリニティア)》との遭遇──それらの単語から導き出されるのは、火の国の都市であるカーディナルだけだった。

 会長は《選ばれし三柱(トリニティア)》について教えられたわけではないが、巫女がそれに分類されると聞いていただけに、この答えに辿りついた。


 大陸ではカーディナル軍の大規模な衝突、そこに現れた火の巫女の活躍などが大きく広められていた。

 彼女が戦場で踊った舞踏、放たれる術の連打から《紅炎の舞姫》という二つ名をつけられるに至る。これを水と雷にまで運んだのは、都市カーディナル内から戦いを見ていた商人達だった。

 詳細な情報は噂という形となり、非常に曖昧なものとなっているのだが、商人達の長であるクラフォードは具体的なものとして認知しているのだ。


「(カーディナル隆盛(りゅうせい)の裏に組織が絡んでいるとは読んでいたが、ボス代行が直接関与していたとは──)」


 これの情報は想像以上に大きな意味を持っていた。

 かの都市は史上稀にみる善人が作り上げた、首都を脅かしかねない理想都市とされている。

 王家が打ち出した民の軽視の方針がその原因とされているが、カーディナル次期領主であるアリトが国に見捨てられた者を救うという、英雄的行為をしたことが最大の要因と見られている。


 だが、その善政の英雄が組織の助力を得ているのだとすれば、こうした美談は一転しかねない。

 戦争の黒幕である組織が力を貸せば、思い通りのシナリオを描くことができる。自作自演(マッチポンプ)の英雄譚と言っても過言ではないのだ。


 ただ、これはカーディナルに限った話ではない。組織についても致命的な情報だった。

 イーヴィルエンターの在りようとは、そこに協賛するどこにでもいる普通の人々の総意であり、人類の進歩を促す為の集団なのだ。

 この戦争も協力者に利をもたらすものであり、同時に技術の発展を加速させるという、組織の理念に沿ったものでしかない。

 しかし、個人が利益を得る為に組織を利用したとなれば、話は別だ。その上、利己的な行為を進めているのがボスの代理だというのも問題だ。


「それで、二人の《選ばれし三柱(トリニティア)》ってのはなんだ?」


 個人的な思惑はさておきと言わんばかりに、黒は本題に移った。


「一人は火の巫女、もう一人は──《火の月》です」

「《不死の仕事人》か。どうして奴があんなところにいたか、分かるか」

「調べた限り、おそらく偶然かと」

「偶然……か。あのクソガキが第一部隊を寄越した件と関係してるンだろうな」


 第一部隊が第五部隊を回収し、帰路についたことは黒の耳にも届いていた。

 情報を知った仕事人は消せ、というのが彼の意見だったが、こうして生きていた以上はそれが成されなかったということである。

 組織──延いては夢幻王──の命令を無視したという時点で、そこに介入した存在は一つに絞られる。それが闇の巫女であるライムだ。


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