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「──巫女が言ってンなら、軽視もできねぇが、迂闊な行動だったことは明白だろうがよ」
「はい」
「チッ、なら反省しろ。お前が妙な金の動かし方をしたせいで、組織の協力者も不信感を抱いてやがンだよ」
態度こそは威圧的だが、黒は暴力的な解決をする人間ではなかった。
彼にとって──組織にとってもまた、ダーム商会というのは重要な立場である。他の協力者と比較しても、明らかに優位であるというほどに。
ただし、異常なまでの優遇は組織の在りように反し、後々の遺恨となる為に対処しなければならない。ここで追及を行ったことで、一応の手打ちとしようとしているのだ。
「っても、三国が連携するとはな……認めたくはねぇが、当代の善大王は相当の曲者だなァ」
「はい。あの男は、既存の善大王とは明らかに異なった者でした──それこそ、商人や組織側に属している方が自然なほどに」
「そういえば直接会ったンだったな。クラフォードの目なら、それだけでも判断できるンじゃねえのか」
「……あの不真面目な態度は、教会の影響が乏しい者の特徴だと思われます。雷の国の人間か、もしくは教えも理解できない下層階級の出ではないかと」
ひどい決めつけのようだが、それが事実だった。
彼もまた、神を信じないラグーン人の性質を強く持つ人間ではあるのだが、それでも真実を読み違えるようなフィルターをつけていない。
教会発足の地とされ、半ば聖地のような扱いの光の国に住まう者は、ほぼ例外なく敬虔な信者である。そうでない場所であっても、常識に根付いていることから、少なからずは影響を受けているのだ。
数少ない例外は常識を必要としない貧民や犯罪者、金次第でなんとでもなるラグーンの人間、そして教会の影響が全くない山の人間くらいのものだろう。
「存外、消えても問題がないような身の上の奴が選ばれてンのかもなァ」
貧困層の者であれば、どこの国のどの時代にでもいる。その上、下賤な身分の者が親族であると名乗り上げても、信じる者は誰もいないだろう。
さらに言えば、血統書さえ存在しないような家系であれば、当人以外が朽ち果てていたとしてもおかしくはないのだ。
これは一見するにダークメアへの批判となり得る答えだが、夢幻王の場合は実力で王位を勝ち取っている為、明確には異なる。
そうして儀礼としての追及や雑談が終えられた頃、ようやく待ち人が現れた。
「失礼します」
「遅かったな、トニー」
「……申し訳ありません。件の地で予期せぬ事態が発生しまして」
「それは分かっている。まぁ座れ」
吸血鬼は勧められた席に座ると、顔を隠していないクラフォードを睨みつけた。
その者が人間ではない、と言うことは組織と深い繋がりを持つだけに周知の上である。であっても、会長は商人達の頂点にあるだけはあり、旧時代の支配者の睨みに竦むことはなかった。
「黒様、この者に聞かれても」
「構わねぇよ。大した話題でもなく、金にもならねぇからな」
ラグーン人は金にならないこと、利にならないことには興味がないものだと切り捨て、黒は報告をするように促した。
 




