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大陸、という単語にフレイア王は驚きを見せた。
「大陸? 海堡か何かのことか?」
「いえ、海上砦のようなものではなく、それ自体が船のように動く島です」
海堡、すなわち洋上に作られる要塞は数少ないものであった。
戦闘に使用しない小拠点はガルドボルグ大陸近くに点在しているが、ほとんどが有用性を見いだされず、使用されていなかったという状況だ。
ただ、フレイアは外敵に備えて建造を推し進めている為、時事的な話題のように感じたのかもしれない。
閑話休題、ヴォーダンは再び驚愕し、机に乗り出した。
「動く島だと!? そんなものが存在したなど初耳だぞ」
「はい。文献を調べた限り、大昔の夢幻王が使用した以降は封印状態であったとのことです」
「夢幻王……だと?」
「《皇》とは元来、外敵から人間を守る為の存在でした。善大王は魔界への道を封印し、夢幻王は人間を統率する──ただ、両者がその役割通りに動いた例は限られますが」
「それは知っておるが──まさか、神が夢幻王に与えた武器とでもいうのか?」
シアンが頷くと、納得したと言わんばかりに姿勢を整えた。
「しかし、ただ巨大な船というだけではないのか? 古い時代の兵器であればなおさら」
「雷の国とも照合しましたが、あの島には上級術の破壊力に相当する、強力な砲台が備えられています」
ここでラグーン王が挙手し、彼に発言権が移った。
「これは私見となるのですが、その砲台はおそらく《武潜の宝具》だと思われます……そして、あの大陸さえも」
「この世界の技術を上回る、異世界の道具……だっけ? もしそうなら、やりあってみたいものだけどね」フォルティス王はいつもの調子で言う
「その威力は雷属性の上級術に匹敵します。対峙したところで、おそらく抵抗する間もないでしょう」
「さぁ、それは分からないと思うよ」
この場で大陸に関しての情報を有しているのは少数。ラグーン王、ライカ、シアンの三名だけだ。
フレイア王の反応からも分かるとおり、火の国は闇の国への侵攻を精力的に行ってこなかった為、未だに遭遇したことさえないようだ。
そうなると、フォルティス王がこの態度というのは異様にも感じられるが、彼は陸戦を重視している為に海戦の一切をシアンに丸投げしていたのだ。
だからこそか、無知な父をフォローするように彼女が代弁する。
「その砲台の威力は雷属性のものと同じですが、効果についても同様のことが言えます。音が届いた時には、既に着弾している……という報告も来ています」
「音速の砲弾、ということか。異世界の兵器は勝手が分からん」
「確認している限り、それ以外にも多くの兵器が搭載されています。海中から突撃してくる爆弾、鉄板さえも貫く弾を連射できる銃、一撃で船を沈める大砲、こちらの接近を察知する観測機──その数は未だに計り切れていません」
船が一隻さえ闇の国に到達できない要因は、魔物以上にこの大陸の影響が大きい。
全ての艤装が、この世界の技術水準を遙かに上回っているのだ。正面から挑んだとして、これを打ち破れる船は存在しないだろう。
「三国で手を結んだとして、それを討ち取るところは可能なのか」フレイア王は問う。
「……不可能ではない、とは断言できます。兵器面では勝ち目はありませんが、こちらは兵力の面で圧倒的に有利です。二名の巫女が攻撃に参加できるという時点で、相手の瞬間火力を越えることは可能なので、速さの戦いとなります」
その説明はつまり、二名の巫女がどれだけ早く大陸に上陸できるか、ということだった。
決して彼女らの射程が短いわけではないが、海上戦での距離は陸上のそれとは桁が違う。密接するだけでも困難だ。
だが、攻撃が届く距離にさえ到達できれば、敵の兵器を無力化することも可能である。
「だが、未だその大陸に傷を負わせられた者はいないのであろう。その状況で勝ち目があるといえるのか」
「これまでの戦いでは巫女は一度も使われていません。それに、一国がそれぞれに戦うのと、三国が同時に攻め込むのでは意味が違いますよ」
その発言こそ、彼女の艦隊が海上無敗と誇る根本的な理由といえるだろう。
英雄に全てを任せきりにするのではなく、一兵でさえ己のできることを最大限に行うという戦い方。
この戦いの肝は巫女ではなく、三国の連携にあると彼女は説いていたのだ。
 




