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──海上、フォルティス艦隊旗艦、司令室にて。
その場には、これまでのミスティルフォードではあり得ない光景が広がっていた。
火の国、水の国、雷の国、大陸の三国が集い、顔を合わせていたのだ。しかも、そこにいるのは各国の代表格だ。
この場は一時的な同盟における、顔合わせの役割を持ったものであり、六名の他には誰もいない。むしろ、この空間内では護衛の一人や二人ではものの数にも含まれないだろう。
「善大王殿がいると思っていたのだが、我々だけか」とフレイア王。
「僕としてはその方が好都合だけどね。彼がいたら、好きに戦えそうにないよ」
「この場は顔合わせと聞いていましたが」
瞬間、フォルティス王は手元に置いていた薙刀を掴むと、ラグーン王に切っ先を向けた。
「こういう意味さ」
「……何の真似ですか」
身内の貴族には頭の上がらないラグーン王だが、彼が王としての資質を欠いているというわけではない。
事実、こうして命の危機を感じるような場面でさえ、落ち着いた様子で相手を威圧している。
「驚いてくれると思ったんだけどね。ただ、僕の思い通りさ」
突き立てた武器を収め、彼は足を組み、鼻で笑った。
彼の意図が理解できないといった様子の王だったが、その横でライカが立ち上がった。
「ふざけんじゃねー! 雷の国に矛を向けてただで済むと思うなーっ!」
「君とは前に戦いそびれたからね。ここでやり合えるなら望むところさ」
前に、というのはラグーンへの侵攻のことを指しているのだろう。
三国協力を誓う場で過去の過ちを平気で蒸し返す辺り、当人は反省していないどころか悪いとさえ思っていないに違いない。
軍事国家を味方に引き込めたとはいえ、王の本質を否定せずに加入させたのだ。このような事態は想定して然るべきである。
「そっちがやる気なら付き合ってやるし! アタシもあんたにギャフンと言わせてやりたかったし!」
「ライカ、やめなさい」
「コイツに好き勝手言わせろっつーの!? こういうふざけた奴は一度ボコボコにして──」
「この三国が協力しない限り、闇の国の暴虐は止められません」
傍若無人なライカならば、ここで戦いを始めてもおかしくはなかった。
しかし、彼女は父親の言葉や意志を尊重できるような精神を育んでいた。戦争がそれを加速させたというのは皮肉としかいえないが。
「しゃーない。今日のところは見逃しておいてやるし」
「はは、残念だよ。気が乗ったらいつでもボコボコにしにくるといいよ」
「言っとけし」
敵対していた二国の様子を黙って窺っていたフレイア組だが、この時点でようやく口を開いた。
「して、この会の代表は誰が務める」
「わたしが務めさせてもらいます」
シアンが発言した瞬間、ミネアは眉間にしわを寄せた。
「あんたのところの王様があの態度で、それを制御や抑止できないような人が代表? 面白い冗談ね」
「こちらの王の非礼はお詫びします。ですが、王に戦う気はありませんでした」
「よく言うわね。それに、詫びる相手が違──」
「確かに、フォルティス王から殺意は感じなかった。詫びについては驚かせたことへの謝罪だろう」
フレイア王は内政とは正反対に、和を乱さないような対応を行った。そんな父親の態度が気に入らないのか、彼女は分かりやすく悪態をつく。
「不満がないということであれば、続けさせていただきます」
ミネア以外の全員が頷くと、彼女は代表としての仕事を始めた。
「今回、わたし達が撃破目標とするのは闇の国の所有する──大陸です」




