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「勝ったわね」
「……だと、いいんだけどねぇ」
勝負はまだ決していない。しかし、ミネアはこの戦いの姿を見て、勝利を確信したのだ。
先に信じなかったのは彼女の方だが、こうして共闘することで生まれる戦力の増加を知り、負けるはずがないと感じていたのだろう。
しかし、アカリは彼女のように楽観視していない。幾多の戦いを目にしてきた彼女からするに、希望一つで恐怖を超克できるはずがなかったのだ。
なにより、前線に追加された二人には凄まじい危うさがあったのだ。
「(シャドーのニイサンみたいな奴だったら、そうそうミスはしないだろうけど……あの二人じゃあ足下を掬われかねないね)」
決して長い付き合いがあるわけではなく、会話の数にしてもアリトの方が多いはずだが、仕事人としての目が黒ローブの実力を見抜いていたのだ。
その信用は人間関係におけるそれとは違う。謂わば、危険な仕事を任せられる暗部のような、仕損じないという安心感だった。
二発目の火柱を受け、藍眼の魔物は戦闘形態を変化させた。相手がハリボテの存在に気付いている、と察知しての高速切り替えである。
しかし、今度の変容は明らかに異質であり、密度を高めたという文言では納得できないほどの小型化だった。
初期の姿と比べると、いきなり八分の一ほどになったというと、その急激すぎる変化がわかるだろう。
「(ありゃー十中八九、何割かを地面に潜ませてるかねぇ。地中からの攻撃能力がまだ残ってるとすれば、相当に厄介だけど)」
そう思いながらも、彼女は口にしなかった。
これは見れば明らかであり、術者タイプの彼女が魔力を察知しなくとも判断できた内容だった。故に、前衛に知らせずともどうにかなると高を括ったのだ。
これはミネアにしても同じことであり、見える彼女はすぐさま相手の位置を読みとった。
「地面に逃れたわ」
「……やっぱりそうかい。っても、そんなこたぁ向こうの連中も悟ってるだろうしねぇ」
「でも、一応伝えておくわね」
「過保護な姫様ですこと」と皮肉混じりに言おうとしていたが、火の国の姫との関係性が強いわけではないからか、親しみのある態度は控えていた。
「魔物の何割かが地面に逃れたわ」
『なるほど、注意──』
声は途中で途切れ、最前線では砂の柱が昇った。
「なっ──」
「そりゃまぁ、こっちの通信への対策も打ってくるだろうね。っても、向こうが感づいてりゃ関係のないことさ」
軽い砂がパラパラと地面に落ちていき、攻撃発生箇所の状況が次第に明らかとなっていく。
だが、そこにあったのはアカリの予期したようなものではなく、あり得ないと切り捨てた結果だった。
「……なるほど、こりゃどうしようもできんわな」
地面からの奇襲については、全員が回避に成功していた。さすがは主力と目された者達といったところだが、この攻防で犠牲者が出ていない、というわけではなかった。
地面からの攻撃に注意していたアリトは、小型化した魔物の塊の速度を見誤り、射程外に逃れるのに遅れてしまったのだ。
その速度は優に三から四倍、何かに気を取られた状況では対処できないものだ。
しかし、それによって彼が死んだわけではない。攻撃を直撃したのは、スラッシュだった。




