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「(《盟友》って私兵団のはずよね……なら、なんであんな)」
ミネアは目を疑っていた。
圧倒的破壊をもたらす魔物に対し、一人の男が戦いを挑んだ。それが先ほどの通信の男かどうかはともかくとし、その戦い方は明らかに人間のものではなかった。
そう、差し詰めそれは……。
「(あんなことができるのは、ティアくらいじゃないの……?)」
黒ローブの男は攻撃を放ち、次の瞬間には敵の射程内から完全に離脱している。飛び跳ねるような機敏性、一人で魔物と相対する姿などは《選ばれし三柱》のそれを感じさせた。
「一体、なんなのよ」
「あれはシャドーっていう奴さね。タダモノじゃないとは思ったけど、ありゃ相当だねぇ」
さり気なく会話──というより独り言だったが──に割り込んできた女性に警戒し、ミネアはすぐさま相手の姿を捉えようとした。
「あんた、誰よ」
「口の悪いガキだねぇ。まるでビリビリ姫のようだよ」
「ビリビリ……姫? まさか、ライカの──」
「まぁそのはずさね。あんたも姫さんも《星》ってことは、似ててもおかしくないわな」
アカリとは初対面だったが、少なくとも彼女がライカの知り合いである、と分かった時点で警戒は解かれた。そうでなくとも、彼女が同類の一人であることは分かったのだから。
「あんたがあの術の使用者ね」
「そうさ。それで、あたしらが火力係ってことだねぇ。こうしてまとまってたほうが、そっちのニイさんがついでに連れて行ってくれそうだしねぇ」
ミネアの登場を見ていたからか、アカリは緊急時の対応策としてこの場に訪れたようだ。シャドーとの通信内容から、自分のすべきことを瞬時に理解したのだろう。
「それで、向こうとの合図は?」
「これ」
仕事人は手に持った符をペラペラと揺らし、姫の前に突き出した。
「準備が終わったらこっちから連絡。それで待避してくれると思うがね」
「除外文を入れなかったのは正解だったようね」
「へぇ、こっちの姫様はずいぶんとお優しいようで」
口調や言い方も相成って、完全なまでに煽りにしか思えない言葉だった。
「悪い?」
「いやいや、本当に誉めてるんだがね。なぁんたって、ビリビリ姫は敵味方区別せずに吹っ飛ばしてるんだからさぁ」
「あの子ならやりそうね」と口走りながらも、ミネアは《魔導式》を完成させた。敵を黙らせるには十分なだけの──二百番台の術。
対するアカリの方も仕事はやり終えており、同じく二百番台を組み終えている。シャドーの逃亡が可能な範囲を考えると、最上級は小回りが利かないのだ──それは上級術でさえ同じことだが。
「こっちの準備は出来たよ。あんたが逃げたのを確認したら打ち込むから、さっさとそこを退いとくれ」
符に向かって声を掛けると、すぐに『了解した』という返答が戻ってきた。
「と、いうことさね」
「じゃあ──って、もう逃げているわね」
「いやぁ、あそこまで早いと、逃げる姿美しい……なんて思っちゃうねぇ」
二人は顔を見合わせると、声を合わせるようにし、詠唱した。
「「《火ノ二百五十番・昇華獄炎》」」
ちょうど蟻塚を範囲内に入れたような、図太い火炎の柱が天空に向かって叩きあげられた。
轟々と遠くまで音を響かせ、灼熱の炎が構成魔物を次々と焦がし、大樹を焼却させるかのように魔物を黒々と染め上げた。
「二人で同一対象に放つとこうなるんだねぇ」
「あたしも初めてみたわ……あんたが都合よく同じ術を選ぶとは思ってもみなかったし」
「そりゃ、こっちも同意見さ。っても、あんな姿をみせられちゃあ、これしかないと思うがね」
本当であれば対空迎撃用の術である為、適切な場面とは言えない。しかし、それでも二人が共通した行動を取ったのは、間違いなく魔物の姿によるところが大きいだろう。
一撃で、高い攻撃力を持ち、さらに多くの魔物を葬る──その条件に合致していたのはこの術だった。




