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爆破処理と平行し、戦闘は続行されていた。
犠牲者の数は既に百を越えようとしており、それであっても攻撃の規則性などは未だに不明瞭。屍を連ねようとも、勝利には繋がっていなかった。
だが、ミネアの策は全くの無意味ではなかった。というより、彼女の救援という一事象によって、すべてが大きく変わりだしたのだ。
消耗戦ながらも、着実に相手の能力発生率は減少していった。能力を維持するのに必要な数を割った集団は、その役割を果たすことができなくなる。
彼女はその本質を読み違えてはいなかった。
シナヴァリア等の望む軍の在り方は、敵対者からすれば恐怖の対象でしかないのだ。
敵兵に指揮官や英雄がいない為、明確な目標がない。その上、彼らの方はこちらの指揮官を容赦なく襲ってくるのだ。
普通であれば一兵にさえ満たない弱兵であろうとも、この方式では精鋭兵とさえ一対一の交換が成立してしまう。
こうした軍は戦い者から戦意を削ぐ。いくら倒しても兵を倒しているという感触がないからだ。
いくらでも沸いてくる量産型の兵。流れてくる動物を次々と絞めていくのと同じだ。
しかし、本質は違う。彼らは量産型の兵ではあるが、一個の生命である。雑草やボウフラのように無尽蔵に沸いてくる存在ではないのだ。
数を減らせば確実に力は減退していき、一つの集団を集中して狙い打てば、その機能は停止する。
「《火ノ十番・火球》」
舞を踊りながらも、ミネアは術を発動していく。
目標を定めながら、次々と敵を打ち落としていく必要のあるこの戦いでは、彼女の舞踏が何よりも輝いていた。
上級術で適当に撃破していくのではなく、要素として繋がる部分を執拗に攻める。これは圧倒的な術の連射率を誇る、彼女だからこそできる芸当だった。
「(能力の三つは封じられたはずよ……次は──)」
瞬間、全滅させたと考えていた集団が姿を表し、砂の内部から彼女を突き殺そうとした。
間に合うと考えていたミネアだが、彼女が術を発動させるまでもなく、赤い力場がこれを弾き飛ばす。
「まだ残党がいたみたいだな」
そう言ったのはトリーチだった。
「おそらく、奇襲する機会を狙っていたんでしょうね。でも、あれで最後のはずよ」
「はい、これでもう奇襲はさせませんよ」
アリトは地面に向かって剣を突き刺し、別の場所に逃れようとしていた羽虫の息の根を止めた。
それに続き、トリーチの放った念動力が周囲の砂を持ち上げ、残る三体の姿を露わにする。
「《火ノ十四番・火華》」
ランダムに動く火球が逃亡しようとした魔物を捉え、一発一発がそれぞれに魔物を焼却していく。
見事な連携ではあったが、これは彼女の意図したところではなかった。
「助けられたとは思っていないわ」
「手間が省けただろ」
「……ま、それは否定しないけど」
《盟友》の隊長はトリーチほどに慣れ慣れしくはなく、軽く会釈しただけで別の戦いに戻ろうとした。
主が背を向けたのを確認してか、飛行能力を有した男は姫に問いかける。
「ミネアはどうして助けてくれたんだ?」
「それはさっきも答えたはずよ」
「そうじゃねぇよ。ミネアは、カーディナルのことを嫌ってた……だろ?」
「ええ、カーディナルっていうより、《盟友》が気に入らなかったわ」
そう言った時、明らかにアリトの動きが止まった。
「でも、善大王に言われてから気付いたのよ。嫌ってたのは、王家として──ううん、あたしにとって不都合だったからにすぎないって。だから、今のあたしは火の国の姫として、この国のことを考えて動くわ」
二人は気付いていないが、アリトはそれを聞き終えた時点で走りだし、戦場に戻った。
彼からすれば、すべてが予想外だったのだろう。
トリーチが戻ってきたことも、そこにミネアが同伴したことも──そして、淡泊な対応しかしなかった善大王によって、九死に一生を拾ったことも。




