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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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「よっし……逃げるとするかね」


 アカリの読みは少々甘かった。

 一体を無事に倒せたからと、二体同時であっても時間を掛けさえすればどうにかなる──などと考えてしまったのだ。


 しかし、だからこそか彼女が事前に行っていた推測の答え合わせが、当人達によって行われることになったのだ。

 最初の魔物の立場とは、二体の魔物の考えとは──。


『逃げられるならば、この場から逃げてくれ。アカリ君だけではない、全員に命令(・・)する……なんとしてでも、逃げ切ってくれ!』

「いやねぇ、これはジョークで言ったつもりだよ。こんなんで危なくなったら逃げてもいい、なんて前口上はあんまりじゃないかねぇ」


 彼女らは、魔物に囲まれていた。巨大な蛇のような個体で行く手が封じられている──というわけでもない。

 数千人の兵、それも整列状態ではない軍隊を囲んでいたのは、数えることさえ諦めるような大勢の魔物だった。


 一体一体は羽虫などの眷属と同等の大きさではあるだが、全個体に眼球が存在しており、挙句にそれらが藍色をしているのだ。

 単純に言えば、群生型の魔物だった。それも、六大国家の軍に相当する数の眷属が、一個体となった特異種。


『偵察に送った者からの情報とは、明らかに異なった事態だ。謝罪して許されるとは思わないが──』

「三人集まるだけでも素晴らしい案が浮かぶって言うんだから、馬鹿でもこれだけ集まったら人間並の考えはもてるだろうねぇ」

『まさか』

「たぶん、複数の能力を持ってるんだろうね。あたしの探知でも二体扱いされてたくらいさ、こっちの認識を狂わせる仕掛けがあるってところだよ」


 アリトの友──スタンレーが戦闘不能に陥ったのも、これが原因だった。

 数年にも渡る繰り返しを続けてもなお、善大王と天の巫女から逃げおおせるほどの者が戦いに参加できなくなるという時点で、この展開は想定すべきだった。

 それを知る者がいないとしても、少しは警戒して然るべきだったのだ。


 《秘匿の司書》と呼ばれる彼だが、数え切れないほどの可能性の世界を渡り歩き、それらのすべてを脳に保存し続けるのは不可能だった。

 命辛々逃げ延び、伝えたのは死因の多くを占めた能力。超広範囲に放たれる蟻酸(ぎさん)噴射、思考透視、そして砂に擬態する能力。


 蟻が先鋒に選ばれたのは、彼を追跡した際、想像以上の犠牲が群生体に発生したことが原因だったのだ。

 逆を言えば、スタンレーは広範囲技と集団による驚異的な追跡力、多様性を持つ魔物を相手に生き延びたのだ。

 事実を知った後ともなると、彼が生きて帰ってきたこと自体が、目の前の光景以上に不可思議でしかないだろう。


「さーて、じゃあ主力で足止めでもするかい? それとも全員で一矢(むく)いるかい? 数はヤバいけど、減らせないこともないわけだしさ」

『それは、勝算のある策か?』

「あたしゃ読みには自信があるほうだけど──それであたしらが助かるってことはないねぇ。ただ、次に戦う奴が少しだけ有利になるかもしれんね、ってことさ」


 危機的状況に陥り、シナヴァリア由来の合理的な冷血策が彼女の口から出てきた。


『……足止めの方は』

「運が良ければ一人を生き残らせることができるかも、ってところかね。その場合、魔物の力はほとんど削げないってことになるけどさ」


 どちらにしても、希望はなかった。

 後に誰かが撃破することを願い──世界の為、ここで一矢を報いるか。

 誰か一人を助けられるかも知れないという、発生し得ない状況を夢見て無駄に命を散らすか。


『これは、俺の責任だ。だけど──こうなると分かっていても、俺は戦うことを選んだと思う』


 もはや全員が気力を失いかねない状況だったが、彼らは普通の軍隊とは根底から違う存在だった。


「ああ、親分……俺達も同じ意見だ」

「はじめから、逃げようだなんて思ってないぜ」

「僕も、あんな化け物にいいようにされたままは気にくわない!」


 心臓は動いているが、もう彼らは死亡していた。駒としては詰みであり、分かり切った一手を打つだけで死が確定するような状況だ。

 死に石でしかない彼らは、もはや自分達の置かれた立場さえも忘れたかのように、戦いの前を思い出させる勢いで奮起していく。


「ってことで、たーいしょっ! ここは戦えるところまでやるってことで」アカリは笑顔で言う。

『ああ……』

 そこで、符の光は消えた。「死力を尽くし、我らが天敵に一泡吹かせてやるぞ!」


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