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大空のフィア  作者: マッチポンプ
中編 少女と皇と超越者
74/1603

2

 扉の前にきた善大王は一度だけ深呼吸をし、扉をノックした。


「よっ、フィア」


 部屋に入った瞬間、素早い動きで少女が善大王に抱きつく。もちろん、それがフィアではないことを善大王は理解していた。

 切りそろえられた前髪が特徴的な、銀色の長い髪。着飾られた人形のような、不釣り合いにも思える豪奢な衣服。光の巫女、アルマだ。


「あっ、アルマちゃんか」

「善大王さん、久しぶり!」

「ああ、なかなか遊んでやれなくてごめん。国内にいる間はどうにか時間を作るから」


 両手を挙げて喜ぶアルマをみた善大王は心の底から安心し、微笑んだ。

 そんな顔をしながらも、奥でケーキスタンドを睨み、お菓子を食べているフィアの存在にも気付いていた。

 置かれている食器などから判断するに、アルマとお菓子を食べながら話していたんだろう、と善大王は推測した。


「(どんな話だったんだろうな、少し気になる)」

「よっ、フィア」改めて、善大王は声をかけた。

「……私はお菓子を食べてるから」


 フィアは途轍もなく不機嫌だった。


「(俺ががアルマに優しくしているからか、それとも仕事を続けていたからか……)」


 善大王は顔を軽く振り、フィアに近づいた。


「あまり機嫌を悪くするなよ。そうだ、城下町にでも行かないか?」


 デートに誘われた途端、少なからず表情に変化が見られた。


「行く……」

「うん、いくー! あたしもあたしも!」

「分かった分かった。よし、三人で行こう」


 フィアは再び機嫌が悪くなった。

 面倒な子だ、と善大王は心の中で思っていた。

 出した言葉は撤回しないらしく、フィアは善大王についてきた。ただ、彼とアルマより少し後ろを歩いている。


「でね、フィアちゃんがね!」

「うん」

「ショートケーキとモンブランを間違えてたの! ねっ、面白いでしょ」

「あはは。うん。面白いね」

「馬鹿みたい……」


 ショートケーキとモンブランを間違える奴がよく言う、と言い掛けるが、そこは善大王。黙って流した。


「少し暑くなってきたし、喫茶店にでも入るか」

「さんせー!」

「……好きにすればいいじゃない」


 善大王はおぞましくご機嫌斜めなフィアとともに、喫茶店へと足を踏み入れる。

 ドアについていたベルが鳴り、ウエイトレスがすぐに駆けつける。

 少女ではないので、善大王は関心を示さなかった。


「三名だ」

「はい、ではこちらにご案内します」


 案内されるまま窓際の席に向かい、座ってすぐに三人はなにを頼むかを確認しだした。


「どれにする? 俺はアイスティーにするけど」

「私は、ライトと同じのでいいわ」

「あたしミルクティー! あっついの」

「(よくもまぁこの暑さでそんなものを頼めるな)」


 善大王はそう思っていたが、アルマは生粋の光の国育ちだ。紅茶の名産地として知られているこの地に住まう者は、大抵が紅茶を好みとしている。

 そういう考えからか、アイスティーよりもホットのほうがいいと思っているのだろう。

 善大王は机に置かれていたベルを鳴らし、ウエイトレスに注文をする。


「アイスティー二つ。ミルクティーを一つ」

「かしこまりました」


 アルマと雑談をし、三言二言を交わす間に三品が運び込まれた。手際はかなりいいらしい。


「じゃ、頂こうか」


 花より団子か、楽しげに話をしていたアルマも、お茶が来た途端に流れを断ち切って飲み始めた。

 城で出されるような高級品よりは落ちるが、それでも外国の上位流通品よりはよっぽど美味という評価を善大王は下す。


「ねぇねぇ、善大王さんのそれ飲んでもいい?」

「ん、構わないよ。じゃあ、俺はアルマちゃんのを少しもらおうかな」


 そんなやりとりをしているのをみたフィアは驚いたような顔をする。


「冷たくておいしー!」

「熱いけど、おいしいね」

「ラ、ライト……私のも、いいわよ」

「いや、フィアのは同じだろ」


 善大王の正論を受け、フィアはとても残念そうな顔をした。

 一口目を過ぎてからは、話しながら飲むというスタイルに変わる。アルマは話し上手らしく、話題を途絶えさせることなく話し続けた。

 善大王もそれについて行き、世間話に花を咲かせていた。


「でね、サクヤさんがね!」

「うんうん」


 突然、フィアが机を叩いた。


「二人だけで話したかったら、そうすればいいじゃない! もう、知らない」


 フィアは喫茶店から出て行った。


「善大王さん、追わなくていいの?」

「ああ、少し頭を冷やせば解決するよ」

「でも、フィアちゃん少しかわいそう」


 善大王としては探知式の存在があるので、さほど心配をしてはいなかった。

 むしろ、甘やかせ過ぎることを問題視していた。


「ねぇ、フィアちゃんのところに行ってあげて」

「……」

「善大王さんはフィアちゃんの王子様だから。きっと、フィアちゃんも、助けてほしいって思っているの」

「甘やかすことは良いことにはならないよ」

「それでも!」


 善大王は溜息を付き、代金を机の上においた。


「分かった。アルマちゃんの顔に免じて、どうにかしてくるよ」


 善大王がそう言うと、アルマは満面の笑みを浮かべた。

 出ていった善大王を見送った後、アルマは残っていた紅茶を眺めた。


「飲んでも、いいかな」


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