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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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 ──カーディナル官邸内にて……。


「さすがは未来の領主様。すばらしい演説だったよ」

「茶化さないでくれ。前までの態度でいい」

「そりゃ難しいねぇ。町中でナンパしてきた男と、領主様じゃあ態度も変わるってもんだよ」


 アカリがあの場に訪れていたのは、もちろん善意などによるものではなかった。

 彼女をスカウトしたのは他でもなく、アリト本人だった。無論、その際には身分が伏せられており、依頼料というシンプルな条件に従って味方をしただけに過ぎない。


「馬鹿高い報酬だとは思ったけど、道理でねぇ」

「君の実力はそれだけの価値がある」


 このように好評な仕事人だが、当人からすると何故に高い評価を受けているのか、それは分からないままだった。

 彼女としては、密偵の能力やラグーンでの戦いが評価されていると考えるしかないのだが、本当は違っている。


 善大王に手出し無用と言われながらも、自身の領地付近に軍隊がいると知っていたからには、アリトも警戒しないわけにはいかなかったのだ。

 そこで、偶然にアカリの戦闘を見た。二百番台さえ使いこなす女性、闇の国にさえ味方するという異常性、それらの要素から彼女が《不死の仕事人》であることはすぐに判断できた。


 普通であればそんな人物を自身の町に滞在させないものだが、これまた偶然に魔物の大量襲撃という危機的な状況が訪れ、悪魔に魂を売る勢いで彼女をスカウトしたのだ。

 《選ばれし三柱(トリニティア)》が藍色一体に相当する、というミネアの言葉を借りるのであれば、これで状況は大きく変わることだろう。


「──にしても、よく敵の位置が割り出せたねぇ。その上、能力まで判明済みとは」

「頼れる親友がいるもんでね」

「へぇ」


 それが誰かは分からないが、彼女からすればどうでもいいことだった。

 依頼の内容は単純明快。魔物撃破、危険と判断できれば逃亡も可とする。もちろんというべきか、報酬は前払いだ。

 半額の支払いであり、戦闘終了後に残り半分が支払われるという流れである。途中でいきなり逃げ出すことも可能であり、防衛に成功すればボーナスが得られる──そういうルールだ。


 相手の戦力を見た時点で、普通ならば匙を投げる。だが、逃亡が許されるともなると危機感が軽減され、莫大な額面に目が眩むのも条理。

 仮にも商業家系に生まれただけはあり、拝金主義者の扱いは上手いものだった。


「それで、主力はどのくらいだい?」

「《盟友(ブラッド)》から三名を出す。スラッシュと、シャドー、そして俺だ」


 これにはさすがのアカリも驚いた。

 藍色三体に対し、主力が自分を含めて四人しかいない──ということもそうだが、大将がそこに混じっているというのも相当に異常だった。


「正気かい?」

「ああ、勝算はある」


 仕事人は肩を(すく)めた後、仕事を受けた以上は適当をするわけにもいかず、状況の確認に務めた。


「で、その二人はどんな奴だい?」

「先ほどの集まりに来ているという前提で話す。重装備の方がスラッシュ、剣戟を得意とする《盟友(ブラッド)の盾役だ。黒いローブを羽織っていたのがシャドー、近接格闘戦を得意としている」

「へぇ、てっきり術者かと思っていたけど、タフガイだったんだねぇ。それで、あたしが後方支援担当ってことかい? 防御はそこまで得意じゃないよ」

「だから、俺達も直撃しないように立ち回る。敵からも、君からの攻撃からも」

「そりゃありがたいもんだね」


 そこでふと、彼女は疑問を抱いた。


「魔物の調査を行ったっていう親友君、こっちに寄越すことはできないのかい?」

「……可能であれば、彼の協力もほしかった。だが、相手は相当に厳しかったらしい」

「瀕死になって情報を持ち帰ったってことかい。素人仕込みの偵察兵にしては立派な心掛けじゃないかい」

「いや、彼は外傷を負ってはいない。ひどい疲労で戦闘の参加が望めないんだ」


 これだけ聞くと、ずいぶんと間抜けな話である。

 魔物三体から逃げおおせるだけの実力を持ちながら、ただの気疲れだけで戦闘不能になるなど、まるでノミの心臓を持つネズミだ。

 それはそれで諜報員としては便利だが、凄まじい精神性を持つ暗部畑のアカリからすると、とても珍しいものである。


 ──彼が三体の魔物と戦い、能力を探り、そして逃げるまでに死亡(・・)した回数を知っていれば、珍しいではなく凄まじいに変わっていたことだろう。


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