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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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 ──火の国、都市カーディナル、大広場にて……。


「まったく、厄介なことに巻き込まれたもんだねぇ」


 数千人が余裕を持って動けるほどの広さを持つカーディナルの大広場には、職種を越えた戦士達が詰めかけていた。

 盗賊、冒険者、中にはそれらの戦闘集団の人間と思えない者達まで混じっている。


 アカリはヴァーカンを離脱した後、この場所で一時の休息としていた。闇の巫女ライムより告げられた事実が、想像を絶するほどのショックを彼女に与えていたのだ。

 そうした傷心休暇中に、こんな大陸でも屈指の戦いに巻き込まれたというのだから、彼女の心中は察するところにある。


 そんな彼女とは対照的に集まった者達の志気は高く、このカーディナルの地を──人を護るという目的によって、心は一つになっていた。

 力による支配が常のミスティルフォードをして、この軍団はあまりにも異様で、不気味だった。正義の心によって形成された集団ではあるのだが、それが彼女から見ても奇妙に映ったらしい。


 迫る戦いに向け、気を高揚させようとしていた者達だが、皆が立つ場所より一際(ひときわ)高い舞台に男が立った瞬間に状況が変わった。

 灼鉄を水に漬けたように、激しい音の余韻を弾けさせながら、皆が急速に静まり返っていく。


 その男は領主の息子でありながらも鎧を装備し、二人の同伴者を連れていた。

 一人は彼と同じように銀と赤で構成された戦士型装備。もう一人は、黒いローブで武装──さらに言えば顔までも──を隠した謎の多い男だった。

 これだけを見ると、まるで物語の勇者を想わせる三名だが、前述した通りに勇者は戦士などではなく高貴な家系の人間だ。


「(濃色の赤毛……あれがカーディナル領主──の息子、アリトかねぇ)」


 アカリは仕事人として生活していた為、情勢にはかなり精通している。

 その上、彼が私兵団を有していることも知っており、ヴァーカンに向かうと分かった時点で情報を見直したばかりだ。

 幸い、彼女らの一行が見つかることもなく、無事に仕事を達成したわけだが──このような戦力を用意していたと考えると、幸運としか言いようがなかった。


「皆が集ってくれたこと、心の底から感謝する。だが、これからの戦いはカーディナルの存亡を()した戦い──その規模は大陸内でも最大級のものと想定される。己の力が不足と考える者は、遠慮をせずに不参加の姿勢を取ってくれても構わない」


 仕事人はこの言葉で静まり返った場と同様に、人々の意志も沈静化すると考えていた。なにせ、彼らは具体的な戦力を目視しておらず、聞き及んだだけにすぎないのだ。

 ここまで警告され、先ほどのような態度をとれる者など、いるはずもなかった……。


「アリト様、いまさらなにを言ってるんですか! 俺達はあなたに救われた身、この場で逃げたらずっと後悔しますよ!」

「そうだそうだ!」

「ああ、俺達は大将についていきますぜ!」

「戦えない人々を護るのも、冒険者の務めだ」

「ああ、どうせ負けたら逃げても助からないんだ。生き残りは自分達の手で勝ち取ってみせるぜ」


 指揮官の演説中だというのに、観衆達は一斉に声を出し始めた。その声の大きさ、量はといえば、さきほどまでの数倍には到達しているだろう。


「ありがとう。だが、まずいと思ったらすぐに逃げてくれ。俺達はここを守る為に戦うんじゃない、ここに住まう人々を救う為に戦うんだ。生き残れなきゃ、意味がない!」


 おおよそ軍隊らしくもない言葉に、皆は沸き立った。その中で冷静さを保っているのは、黒ローブの男とアカリくらいのものだろう。


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