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──火の国、都市カーディナル、大広場にて……。
「まったく、厄介なことに巻き込まれたもんだねぇ」
数千人が余裕を持って動けるほどの広さを持つカーディナルの大広場には、職種を越えた戦士達が詰めかけていた。
盗賊、冒険者、中にはそれらの戦闘集団の人間と思えない者達まで混じっている。
アカリはヴァーカンを離脱した後、この場所で一時の休息としていた。闇の巫女ライムより告げられた事実が、想像を絶するほどのショックを彼女に与えていたのだ。
そうした傷心休暇中に、こんな大陸でも屈指の戦いに巻き込まれたというのだから、彼女の心中は察するところにある。
そんな彼女とは対照的に集まった者達の志気は高く、このカーディナルの地を──人を護るという目的によって、心は一つになっていた。
力による支配が常のミスティルフォードをして、この軍団はあまりにも異様で、不気味だった。正義の心によって形成された集団ではあるのだが、それが彼女から見ても奇妙に映ったらしい。
迫る戦いに向け、気を高揚させようとしていた者達だが、皆が立つ場所より一際高い舞台に男が立った瞬間に状況が変わった。
灼鉄を水に漬けたように、激しい音の余韻を弾けさせながら、皆が急速に静まり返っていく。
その男は領主の息子でありながらも鎧を装備し、二人の同伴者を連れていた。
一人は彼と同じように銀と赤で構成された戦士型装備。もう一人は、黒いローブで武装──さらに言えば顔までも──を隠した謎の多い男だった。
これだけを見ると、まるで物語の勇者を想わせる三名だが、前述した通りに勇者は戦士などではなく高貴な家系の人間だ。
「(濃色の赤毛……あれがカーディナル領主──の息子、アリトかねぇ)」
アカリは仕事人として生活していた為、情勢にはかなり精通している。
その上、彼が私兵団を有していることも知っており、ヴァーカンに向かうと分かった時点で情報を見直したばかりだ。
幸い、彼女らの一行が見つかることもなく、無事に仕事を達成したわけだが──このような戦力を用意していたと考えると、幸運としか言いようがなかった。
「皆が集ってくれたこと、心の底から感謝する。だが、これからの戦いはカーディナルの存亡を賭した戦い──その規模は大陸内でも最大級のものと想定される。己の力が不足と考える者は、遠慮をせずに不参加の姿勢を取ってくれても構わない」
仕事人はこの言葉で静まり返った場と同様に、人々の意志も沈静化すると考えていた。なにせ、彼らは具体的な戦力を目視しておらず、聞き及んだだけにすぎないのだ。
ここまで警告され、先ほどのような態度をとれる者など、いるはずもなかった……。
「アリト様、いまさらなにを言ってるんですか! 俺達はあなたに救われた身、この場で逃げたらずっと後悔しますよ!」
「そうだそうだ!」
「ああ、俺達は大将についていきますぜ!」
「戦えない人々を護るのも、冒険者の務めだ」
「ああ、どうせ負けたら逃げても助からないんだ。生き残りは自分達の手で勝ち取ってみせるぜ」
指揮官の演説中だというのに、観衆達は一斉に声を出し始めた。その声の大きさ、量はといえば、さきほどまでの数倍には到達しているだろう。
「ありがとう。だが、まずいと思ったらすぐに逃げてくれ。俺達はここを守る為に戦うんじゃない、ここに住まう人々を救う為に戦うんだ。生き残れなきゃ、意味がない!」
おおよそ軍隊らしくもない言葉に、皆は沸き立った。その中で冷静さを保っているのは、黒ローブの男とアカリくらいのものだろう。




