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──光の国、首都ライトロード、大聖堂にて……。
「──宰相シナヴァリアの行った悪行は、ここに示された」
民の集う大聖堂でその発言を行ったのは、ダーインだった。
彼はシナヴァリアの発言内容などを詳細に語り、その陰謀、どのような経緯を辿ったのかを克明に示した。
具体的な取引内容についても、天の国の貴族数名に問い合わせており、事実であるという裏付けは取れていた。
この時点で、彼が国の財産を他国に譲り渡した事実が明らかとなった。
無論、この情報から宰相が協定を目指していたことも分かる為、少数だが異を成す者は現れた。それだけ、シナヴァリアは心酔されていたのだ。
「よって、シナヴァリアを東部戦線──その最前線に送り込む」
この発言は神皇派も関知していなかったらしく、勝手な執行をされてはならないと制止に入った。
「ダーイン殿、宰相への裁きは我々が決定するはずだ!」
「民の為を想うのであれば、敵に一矢を報いて死すのが利口だろう。幸いながら、彼の戦闘力は評価に値する……一矢どころか、打撃を与えてくれるやもしれん」
「だが──だが、ダーイン、お前があの情報を知ることができたのは、あの男と関わっていたからだ! そのような裏切り者が決定すべきことではない。民はシナヴァリアの処刑を望んでいる」
この発言を耳にした瞬間、民衆は一斉に静まりかえった。
「──と、言うことだ。私、第三位司令官ダーインは宰相シナヴァリアの悪行に手を貸していた。しかし、この行為が天の国との協定を結ぶ為のものであり──光の国を護る為のものだったことだけは信じてもらいたい」
誰もが大貴族の発言を疑わしく思う中、彼は自身の釈明にとどまらず、その先を行った。
「だからこそ、私もシナヴァリア殿と共に最前線に赴く。彼の悪行を咎めることも、止めることもできず……事が至るまで伝えられなかった責は、この身を持って償おう」
この光の国は貴族制の強い国家だ。故に、大貴族などの派閥トップは死や危険とは縁のない存在である。
そんな地位の人間が死地へと赴くということは、通常ではあり得ない贖罪である。その上、死にゆくその時まで民を想っているというのだから、ただの悪人と片付けることもできない。
神皇派タグラムは憤りながらも、これは誰かの手によって止められると考えたのか、周囲の様子を窺った。
義を重んずれば民が止める。そうでなくとも、正統派の貴族が止めにはいるだろう、と打算の上で安堵していたのだ。
しかし、誰も止めない。それだけ、ダーインの覚悟は本物だったといえる。
光の国の主力を担うトップ二名の喪失──当初の予定では悪しき一人を消し去るにとどまっていたのだが、これが二倍に広がるとなるとただ事ではない。
「(この男……気でも違えたか? 直接関与していない以上──いや、シナヴァリアという諸悪が存在する以上、すっとぼけてしまえばそれで済む話ではないか。それを、なぜ……どうしてこのような無謀な真似をするのだ!)」
派閥としての好敵手が渋い表情をしているのを見てか、正統派の盟主は心の底がすぅっと晴れる感触を覚えた。
「(これこそが、唯一の道だ。すべての罪を背負い、この国を救おうとした男を助ける為の──ただ一つの道)」
彼が是とした運命は、あまりにも厳しいものだったのだ。それを歪める為には、これほどまでの無茶が必要だった。
その上、この無茶の先にあるのが彼の筋書きにない展開だとすれば、勝敗を分かつ悪手となり得る。
だが、それでも彼は信じているのだろう。この国ならば危機を前にしても耐えられると──そして、宰相を救おうとした姫の良心を。




