出会いの種、輝きの花
フィアを連れ出して数カ月、善大王は真面目に王として働いていた。
その間、フィアとも遊んでいたが、それは飽くまでも一時の遊びにすぎない。
彼としてはシナヴァリアに負い目があったのだろう。王として恥じない程度の仕事をしなければ、交渉の余地がないと考えていたに違いない。
そして、機会が来たとばかりに、シナヴァリアに一つの提案をした。
「――事情はある程度呑み込めました。ですが……」
「こちらとしては失態した落ち度がある。それは紛れもない、俺の責任だ。だからこそ、皇としてあちらの姫のカウンセリングを行うべきだ」
「……して、善大王としての仕事は私に、ですか」
「ああ、そうなるな。まぁ、光の国の為と思って」
シナヴァリアは明らかに嫌そうな顔をしていた。
宰相は暇ではない。その状況で仕事量二倍――以上かもしれない――を要求している。簡単に折れてくれるとは善大王も思っていない。
「天の国の姫は闇を抱えている。それを解消できれば、天の国に貸しを付けることも可能だ。そうなれば、後々動きやすくなる」
「……分かりました。仕事は私が請負いましょう」
「さすがシナヴァリア、話が分かる」
「ですが、それは飽くまでも一時的な処理です」
そう言うと、シナヴァリアは紙に文字を書いていき、善大王に突きつけた。
「これ……どういうことだ?」
「この日数は手を打ちましょう。休暇のような扱いと考えていただければ」
「そこは無償でやってくれるんじゃないのかよ!」
「私としては、善大王様には城に居て欲しいのですよ。王として、執務をこなす存在として」
それは正論だった。善大王としても反論できる場面ではない。
「分かった。じゃあ、とりあえずそれで手を打とう――三週間くらいおまけしてくれないか?」
シナヴァリアはジョークを言わない。笑みを浮かべて圧力をかけてくるようなこともなく、肯定するわけでもない。
睨みを利かせ、善大王を威圧するように「期日にはお戻りください」とだけ。
敬語を使うようにはなったが、善大王とシナヴァリアの関係は昔のまま。善大王としては、良くも悪くも互角、同党の存在という認識だった。
彼はそんな在り様が嫌いではなかった。この国で共感できるような立場だったのはシナヴァリアだけ、というのも影響している
「では、私はこれで」
シナヴァリアが執務室から出ていくのを確認すると、善大王は突っ伏した。
「とりあえずは取りつけたが……休暇を切らせるか、普通」
善大王には基本的に休暇はない。それでも、止む負えない状況で使うようなものが存在している。
シナヴァリアが書いた紙には、それを消費するということが書かれている。言ってしまえば、この期間は善大王が年間に使える――最悪の場合、四年規模かもしれない――持ち休暇分なのだ。
机の上に置かれた書類を手に取り、早速仕事に移る。
乗り気になれない善大王だが、仕事をしないことには始まらないと、執務を始めた。
昼食も食べずに作業を続け、昼過ぎの菓子を食べ始めるような時間に一度区切りをつける。紙束はかなり減り、残りは四分の一、という程度にまで捌かれた。
「よし……フィアの様子でも見に行くかな」