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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
727/1603

14

 善大王は頭を高速回転させ、状況を打開する一手を導き出していた。

 対するフィアだが、彼女は彼女で彼の自己犠牲的なやり方を是としたわけではなかった。


「善大王様、確認させていただきたい。あなたは、私の立場を理解している」

「ああ」

「その上で、見逃そうとしている──正義の執行者である善大王が、それも口止め料まで要求している」

「それで間違いない」

「何故、そのような真似をする」


 商人の顔は変わっていた。これは相手を見定めるべく行う、所謂審査の目だ。

 彼が大富豪となり、ミスティルフォードを席巻(せっけん)するに至ったのは、この観察眼が究極の域に到達するほどに冴えていたからといっても過言ではない。

 金のにおい、裏切りの痕跡、信用の是非、それらを見定めるだけで確定させてきたのだ。無論、ただ外見を探るだけではない──全ての情報を元に、情報を算出するのだ。


「……善大王らしくもない、とでも」

「聞いているのは私だ」

「何故? そうだな、そうした方が最適であるからだ。あんたを絞めたところで、攻勢に転じられるわけではない。だが、あんたから金を絞り出せれば、この戦争を終わらせにいける」


 内通者の始末は急務のように思われるが、彼は前述の通りに通常の論理では動いていない。

 最速で、という条件を達成する為には防諜(ぼうちょう)戦をしている暇などないのだ。

 そもそも、内通行為の最大の利点は先んじた手を打てることにある。軍が行軍していく経路を知っておけば、奇襲をかけることも容易になる。


 だが、百万の軍が攻めてくると百人の兵隊知ったところで、なんの意味もないのだ。彼の理想はそこにある。

 ミスティルフォード連合とはまさにその理想型であり、全軍が一個体となってしまえば、もはや闇の国がどういった手を打とうとも対抗できない──圧殺が成立するのだ。


 ガムラオルスの言った英雄のない軍隊とその仕組みは同じであり、この部隊には絶望的な被害は存在しない。英雄とされる者が討たれたとしても、それは歩兵一()の死として計上されるのだ。

 その状態を作るのに必要なのが、裏切り者の流す大金である。


「情報は依然として流してもらって構わない。組織との協力に関しても、これを止めることもしない。あんたの情報を知っているのは俺だけだ──円満解決だと思わないか?」

「驚いた。善大王様は倫理(りんり)に縛られた化け物であり、論理(ろんり)を持たぬ善性の塊だと思っていた」

「俺がその中でも異質というだけだ。ダークメアがドンパチしなけりゃ、俺が悪の王になって全世界へ戦いを挑んでいたかもな」


 フィアは咎めようとするが、今度は事前に止められてしまう。


「目的の達成の為であれば、手段は選ばない──いや、倫理を無視して最適な手を打っているだけか」

「そうだ。だからこそ、あんたにも利が出るような提案をしている──人類が勝てば、そのままの立場を取ればいい。もし負けたとしても、その時は協力者として向こうにつけばいいだけだ」

「……人は自分の分を弁えた役割を持つべきだ。それが最善であり、全員が得をする方法だ──善大王様は、私さえも駒の一つとして考えているのだな」


 彼は商人としての人生観を語った。そして、その上で自分の役目が善大王によって確定されたのだと気付き、それを伝えた。

 彼の役割とは人類に金を渡し、敵に情報を渡すという、二面性の裏切り者だったのだ。


「そういうことだ」

「……はじめから、私は選択を(たが)えていたのかもしれませんね。いいでしょう、あなたの提案に乗りましょう」

「違えた、というのは何のことだ?」

「相手が交渉を呑んだ時は、間髪入れずに契約を結ばせるべきですよ。相手の気が変われば、取れたはずのものを拾い損ねることになりますよ」


 質問を(かわ)そうとしている、と善大王は確信した。しかし、そうだと分かったところで彼の決定は変わらない。


「忠告感謝する。では、さっそく話を進めさせてもらおう」


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