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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
722/1603

9

 ──雷の国、北部の村ディオディにて。


 そこは、雷の国とは思えない静かな村だった。

 各地に電灯(でんとう)が配置されてはいるが、それらのサイズは異様に小さい。その上、明るさも暗順応した状態よりマシという程度だ。


 日が落ちたばかりだが、村人の多くは家に戻っているらしく、家々の窓からは仄かな光が灯っている──こうしてみると、電灯が機能しているのはそうした光源の当たらない道だけのように思えた。

 しかし、今はそれが助けとなった。善大王とフィアの目的地は、底に向かうまでの道のりに家がなく、その上で村から少々離れたところにある。


 薄暗い道を歩きながら、フィアは自然な様子で話を振った。


「私が道を照らす?」

「いや、これなら視界も十分に確保されている。不用意に閃光を放とうものなら、余計な警戒感を抱かせかねない」

「うーん……私、そこらへんは調節できると思うんだけどなぁ」

「それを言うなら俺もだ。むしろ、光属性の専売特許であってほしいくらいだ」


 照明系の術は、それこそ全ての属性に存在している。光とは正反対の闇属性でさえそうなのだから、光属性使いが不遇と感じるのも分かる話だ。

 唯一の強みは光源の限界値が相当に高いことくらいだろうか──いや、一番の時点で辺りを照らせることだろうか。


 二人の会話は再び途切れ、良好とはいえないが十分に目が利く、という暗がりを黙々と歩いていく。

 そんな時、フィアが突き出た丸石につまずき、転倒しそうになった。


「ちゃんと注意しろって」


 咄嗟に──という形容詞が不要なほどに、彼は余裕を持って姫の体を支えた。


「えへへ、ちょっと見えづらくて──それにしても、ライトは注意深いんだね」

「仮にもフィアは幼女というカウントだからな。転ぼうものなら、肉眼でみてなくても分かる」

「仮にもって……。ううん、そうじゃなくて、さっきからちゃんと避けてるじゃん」


 どうやら、彼女がつまづいたのもそれが原因だったらしい。

 暇で会話もないという状況で、彼女は善大王の動きをずっとみていた。その最中に、彼が足下をみることもなく障害物を避けていく様を珍しく思ったらしい。


「……さ、どうだろうな。技術は体に叩き込むタイプだから、意識してやってるわけでもないぞ」


 彼としては、技術拾得の究極系とは無意識での操作であり、思考という段階を無視して行うことと認知しているようだ。

 それは全ての仕組みを理解し、自身の能力を暴走させるのではなく、信じぬくことでもあった。《魔導式》の高速解析や、尋常ではない速度の下級術発動もその一部である。


「私にはできそうにないね」

「おお、ようやく自分のことを理解し始めたか!」

「……ライト、それって私がダメダメなことに気付いていなかった、って言いたいの?」


 周囲の暗さで気が立っているのか、フィアの言葉には鋭いトゲが含まれていた。


「ある意味、そうとも言えるな」

「むぅううっ! 私そんな馬鹿じゃないよ!」

「悪く言っているつもりはないんだぞ? うん、本当に」


 また(けむ)煙に巻こうとしている、と判断したのか、フィアは殴りかかろうとした。


「自身の限界を探る、というのは大事なことなんだ。それはフィアみたいなすごい力を持った人間でも同じこと──人は自分の力に応じた仕事をしていればいいし、それが一番楽で、誰にとっても都合がいい」

「それって後ろ向きな考えじゃない?」

「……ああ、その通りだ。だからこそ、俺は自分の限界を探った上で、それを理想に近づけるように日々努力すべき、と解釈している。フィアにいきなり友達百人作れ、なんて言っても無理だが、一人作れって言えばできるかもしれないだろ?」

「あーそういうことね。できることから順番にステップアップ、ミネアのところでもそんな感じだった気がする」


 納得したフィアをみて、彼は優しい笑みを向けた。


「でもね、ライトの言ってることは少し違うね」

「ほう……というと?」

「私は一人だって友達作れる気がしないもん」

「……」


 後ろ向きではないかと他人に言っておきながら、その返しでこのような発言をする辺り、彼女の精神はずぶとくできているのだろう──と、善大王は理解した。


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