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──光の国、ライトロード城内、会議室にて。
国の一大事に、大貴族であるダーインが会議の参加を辞退しているはずがなかった。
彼は声を出さず、魔力の痕跡さえ残さず、主との通信を行い──そして、終えていた。
アルマの技術もそうだが、彼のそれも人智を越えたものだ。歴史にこそ残らなかったが、確かな記憶としてこの世界に刻みつけられている。
《禁魂杯》、歴代使い手の記憶を蓄積し、使用者に無尽蔵とも言える知識を供給する神器だ。
この中には表には出てこないような危険な術から、驚異的な難解さから失伝してしまった技術に至るまで、その大半が記憶されている。
しかし、術などは力の片鱗にすぎない。その真価は歴代所有者の経験──それを応用して行うことのできる、超高精度の予知にあった。
古い世代の《選ばれし三柱》であるからか、ダーインは力に制約を与えていた。使うべき場面が現れるまではなるべく使用しない、というものだ。
現に、彼が評価されたのは彼自身の実力に他ならず、戦前は同類へのアドバイスに限定していた。
だが、彼はその戒めを解き放った。世界の秩序を守る為ではなく、姫の涙を拭う為だけに。
「(──これで宰相の死は回避できる。彼の狙いも読めたが、ここではアルマ姫の頼みを優先させてもらおう)」
瞬間的な分析で《光の月》は解を導き出した。
宰相シナヴァリアを生存させる方法。そして彼が役職に縋ることもなく、無抵抗で身柄を拘束された理由も。
理論上、冷血宰相の筋書きに従って行動するのが最適だった。皮肉なことに、彼は危惧を撥ね除け、天の国との同盟を結ぶ為の手を打ち尽くしていたのだ。
そう、打ち尽くしていたのだ。
「(……最初から感じていた。この男は国の為ともあれば、自分の命すら平然と差し出す者だと。それを忠義だと考え、信用したが──あの男は、口先で相手を説得する類の人間ではない。本当にできると確信していたのだ)」
分かってしまえば、これほどまでに恐ろしく──また、哀れなことはなかった。
シナヴァリアは最悪の状況を想定した上で、自分がいなくとも対局が続くように布石を打っていたのだ。
誰がどのように異常な行動を取ろうとも、視野の狭い身内が暴走することも、そして自分が死ぬことさえも予定の範疇だった。だからこそ、あれほどまでに平然としていたのだ。
神器という力によって予知を取得したダーインだからこそ、そんな彼の気持ちがよく分かった。覚悟さえできていれば、恐怖や死さえも自分を脅かすことはできないのだと。
だからこそ、これは姫の命であると同時に、似た能力を持つ者としての同情となった。




