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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
719/1603

6y

 ──光の国、ライトロード城にて……。


 善大王、宰相。この国を維持する存在を欠いた城の内部は、いつも以上に閑散(かんさん)としていた。

 もちろん文官達は城に務めているのだが、廊下を歩き回ったりはしない。特に、公務が完全に凍結状態にある今、外に出歩く理由が存在しないのだ。

 役職についている者や一部の貴族についても、シナヴァリアの対処という案件で会議室にこもっている。おそらく、しばらくは出てこないことだろう。


「(シナヴァリアさんは……うん、ここだね)」


 彼女の脳裏には、首都ライトロードの全体像が浮かび上がっていた。

 光の門の機構と同調し、その機能を部分的に使用することができるという技術。

 かの大穴がもたらす精神侵蝕に耐性を持ち、設計者と同じ種族(・・・・)であるからこそ行える技であり、この情報に関しては誰にも口外していないようだ。


 自身の意識を調律することにより、管理機構との接続を行う。言葉にしてしまえば簡単なものだが、光の門がエルフの超技術によって構成されているという時点で、説明をしたところで真似(まね)することはできないだろう。


 シナヴァリアの反応が確認されたのは、城の地下にある牢屋だ。かつて善大王がアルマに手を出し、親衛隊によってぶち込まれた場所と同じである。

 ただ、見張りの者が三名いるということもあり、安易に逃亡させるのは得策とはいえなかった。彼女が頼めばそれで済む話ではあるが、その場合は見張りがどうなるかは火をみるより明らかである。


「(みんな、なにを話してるんだろ)」


 今度は会議室に意識を向け、その内部にいる人数──そして、会話内容に探りを入れた。


「宰相の首は早急に落とすべきだ」

「それは過剰な対応だ。理由があったとはいえ、善大王様が黙っているとは思えない」

「善大王様の命令で動いているという線は?」

「このような悪事を善大王様が関知(かんち)しているとは思えない。知っていれば、止めていたはずだ」

「確かに。王の(めい)とあれば、あの男も弁明をしていたことだろう。それがないという時点で、暴走と考えるのが無難だろう」

「私は善大王様を無条件に信じる、というのは危険だと思うがね。そもそも、彼が長期に渡って国を離れていなければ、あの男がここまで増長することもなかった──なにより、こちらからの連絡に応じないというのも不審だ」


 これらの会話は現在進行形で行われているわけではなく、この部屋の中に記録されていた内容だ。当然だが、現在の話を聞くことも可能である。

 しかし、それに関しては余計な手間だと言っても過言ないだろう。これらの発言はアルマが欲した情報であり、それ以外はノイズとして弾かれたのだから。


「(どうしよぉ……このままじゃ、シナヴァリアさんが殺されちゃう──それに、善大王さんも)」


 善大王に関しては怪しいところではあるが、冷血宰相の方は間違いなく何らかの裁きが下されることになるだろう。

 一介の姫とは思えない行動力で情報を収集したものの、アルマには抵抗する手段が思いつかなかった。

 そもそも、彼女は教会の象徴であることからも分かる通り、教義の模範となるような生き方をしてきたのだ。人を騙し、欺き、勝利を勝ち取るような気質の強さを持ち合わせてはいない。


「……あっ、そうだ! こんな時はダーインさんに聞いてみるのがいいかも」


 正統派の代表であり、王家との──個人としても──関わりの強い彼であれば、自分の頼みを聞き届けてくれるかもしれない。彼女は疑いもせず、通信術式を開いた。


『……アルマ姫ですか?』

「そうだよぉ。ダーインさん、今日はお願いがあって──」

『宰相について、ですか』


 心を読まれたのではないか、と思ったのか、アルマは露骨に驚いて見せた。ポーカーフェイスの乏しさは、彼女の魅力ではあるのだが、こういった場面では場違いに映る。


「なんで分かったの!? すごいよお!」

『彼を救い出すのは、困難かと』


 驚いた矢先に、頼りにしていた大人があっさりと希望を打ち砕いてきた。ただ、それも仕方のないことである。

 教会での集会が混じりけのない純粋な民意であるとすれば、これを覆すことは国民に反することになる。そこに理由があったとしても、なるべく起こすべきではない行動だ。


「ダーインさんでも、助けられないのぉ? 本当に、駄目なの?」

『はい。私に限ったことでもありません──アルマ姫、あなたも彼を助けてはいけません。もしも私情で彼を許せば、国の信用が失墜(しっつい)しかねません』

「でも、でもぉ……あたしやだよぉ……シナヴァリアさんが死んじゃうなんてやだよぉぉ」


 理論上の問題であるにもかかわらず、このように泣かれてしまうとどうしようもない。

 泣き落としが通じるのは理性を持った相手だけであり、今の民などには逆効果になりかねない。いや、効いたとしても遺恨は残る。


 だが、彼は自身の考えを改め始めた。自身の主がこのように悲しんでいるからには、それを取り除くのが臣下としての在り方だと考えたのだ。

 それがいくら間違っているとしても、助けられる者が望んでいない行為だとしても、彼はそれを選ぶだろう。


『私は宰相の(しもべ)になったつもりはありません』

「えっ」

『我が(あるじ)よ、あなたが命じるのであれば──私は不可能も可能にしてみせましょう』


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