表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
718/1603

5y

 ──光の国、ライトロードの教会にて……。


 “宰相シナヴァリア、民から奪った金で天の国に賄賂。狙いは保身目当ての亡命か”


 教会が()った刊行物(かんこうぶつ)によって、ライトロード人の多くがシナヴァリアの悪行を知った。

 最大の問題は、この内容の大部分が脚色されていることだった。宰相をよく見せようとせず、別の見方から捉えることで極悪人のように演出しているのだ。


 その上、追撃のようにシナヴァリアが大量の人間を殺していたことや、他国から光の国を破滅させる為に送り込まれた者──などと尾鰭(おびれ)のついた風説まであふれかえっていた。

 前者については、暗部時代の仕事がそうであっただけにたちが悪い。こうした嘘というものは、それなりに真実が混じっている方が信憑性を増すものだ。


「主の教えを理解していない者が指導者になれば、ああなるのも当然だ」

「他国の人間を要職に置くなど、愚行でしかない。神に従う我らライトロード人であれば、あのような恥知らずな行動は取らない」


 教会に集まった者達はシナヴァリアへの批判を述べ、話し合っていた。

 この会話に生産性はなく、ただの愚痴にも等しい行動なのだが、それも教会の機能──精神衛生の維持、向上──である以上は仕方のないことである。

 しかし、彼のことをよく知るアルマからすると、この汚職事件を素直に信じることはできなかった。


「(シナヴァリアさんは確かに怖いけど、みんなが言うような悪い人じゃないよぉ)」


 今すぐにでも、それを信徒達に伝えたい気持ちでいっぱいだったが、この場で口にするのは彼女からみても不適切だった。

 光の国が平和な国とされているのは、教会による倫理矯正が最も強く働いているからだろう。だが、それだけで人間が負の感情から解き放たれるわけではない。

 この教会内での集会もまた、人々の理性を保たせる作用を持っているのだ。


 他者を(おとし)めるような言動は悪徳の一つではあるのだが、この場に限ってはその制約は外れる。それは教会が国家に匹敵する影響力を持ち、その内部はどの国であっても治外法権となる為だ。

 主の名の下に、この空間内では平等が成り立っている──という理屈を用いているようだが、これは各国が認めるところである。

 これは教会に気を遣ってるという性格だけではなく、民の不満を吐き出させる理性的な場所、という為政者(いせいしゃ)からしても都合のいいものだったのだ。


 つまるところ、この風景は異常でも何でもない。むしろ、本来の姿といえる。

 それを教会内でも象徴的な立場にいるアルマが咎めようものなら、信徒達が気持ちのやり場を失い、暴走を始めるかもしれない。

 ただ、そんな彼女でも何一つ手を打たず、善大王の帰りを持つというようなことはしない。


「(あたしだって頑張れるもん!)」


 ただの子供が発する言葉であれば愛らしく、悲しいほどに無力なものにすぎないのだが、彼女はすべてにおいて有利な立場に立っていた。

 姫であり、巫女であり、教会の象徴。この国に存在する全ての派閥に対し、宰相以上に融通を利かせることが可能な存在なのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ