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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
717/1603

4C

 投降を呼びかける為、神皇派の首魁は悪しき宰相の眼前まで迫った。

 しかし、ここで降参したところで状況は改善しないだろう。というより、彼らはそれに応じないことを確信している。

 この呼びかけはただの大義名分作り。抵抗してきた相手に反撃した、という理屈をかざすつもりなのだ。


「悪事とは、何のことだ?」

「貴様が天の国に多額の賄賂(わいろ)を贈ったことだ。神聖なライトロードの血を持たぬよそ者──蛮族らしい浅はかな考えだ。どうせ、その金で亡命できるように取り計らってもらったのだろうな」


 シナヴァリアの表情は僅かにも変わらなかった。

 生まれの風の一族でも、彼は裏切り者として扱われ、戻る場所を失っている。

 そして、長年尽くしてきた国にさえ、よそ者と(そし)られた。

 そんな状況でも、彼は焦らない。彼は心を揺らさない。


「あれは天の国との協定を結ぶ為のものだ。善大王様を欠いた今、光の国は他国と協力せずには生き残れない」

「そこまで立派なな大義(たいぎ)があるのであれば、なぜ黙っていた? 民どころか、国に仕える者でさえ知らないという状況は不可解ではないか? ──貴様は後ろめたいことがあるからこそ、黙っていたのだろう? 素直に言え、助かりたかった……とな」


 猛将という印象を抱かせる男は宰相に迫り、威圧感のある表情で彼の顔を直視した。視線を合わせ、気合いの面で勝利を得ようとしていた。

 だが、シナヴァリアはそれをやり返すだけで、彼の望んだような反応を見せない。ひたすらに目を見て、焦りを表さない。


「(悪党がっ……! 自分は悪くないという顔をしおって──ただの若造がッ!)」


 胸ぐらを掴み、そのまま投げ飛ばそうとする。大貴族とはいえ、彼は武闘派の人間だ。だからこそ、並大抵以上の戦闘能力を有していた。

 ……しかし、それは危険な行為だった。シナヴァリアは近接戦を奥の手とする、元暗部の人間だ──距離を詰めることはつまり、自ら相手の即死射程に収まりにいくようなものだ。


「(この男を始末すれば、十分に事態は収められる……か)」


 同じ国の人間を──大貴族を前にしながら、冷血宰相の瞳には迷いがなかった。

 実際、この状況で自分達のボスが一撃で殺されたと知れば、兵隊達は冷静な判断能力を失うことだろう。

 そもそも、防具が意味を成さないと知った時点で、逃亡する者が半数といったところだろうか。散り散りになってしまえば、数の有利は一瞬で(くつがえ)る。


 少なくとも、ここで戦えば間違いなく彼は勝利する。そして、懸念の一つを消し去ることが可能となる。

 しかし、宰相はその選択を是とはしなかった。


「タグラム殿、あなたの目的は?」

「目的だと? それは貴様の悪事を暴き──」

「暴き、どうする」


 ある意味、予測外の返答だった。

 神皇派の筋書きには、彼がここで抵抗をし、それを彼らが打ち倒すという展開しか書き込まれていなかったのだ。相手がそこから外れるような態度を取った時点で、すべてが狂い出す。

 まるで考えなしな行動、浅い作戦のように映るだろう。ただし、そうではないのだ。

 自分が死ぬかもしれないという状態で、それを受け入れるような行動を取ってくるなど想定できるはずもない。

 倫理の枠組みから外れた人間が存在するなど、ライトロード人の世界ではあり得ないことなのだ。


「私のやり方に不満があるというのであれば、宰相をやめれば満足なのか? 貴殿が宰相となり、国を導いていくことが目的か? それを言ってもらわなければ困る」


 ここにきて、さらに追撃を放った。

 シナヴァリアは宰相という立場によって、貴族相手に大きな態度が取れている──と、彼らは考えていたのだ。

 血統上の優位を持たない者が地位を捨てるということは、貴族が自身の名を捨てるにも等しい。理解の範疇外の行動なのだ。


「いや、待て……」

「なるべく早急に済ませてくれ。私は天の国との問題を解決しなければならないのだ」


 首魁は同伴の兵達と顔を見合わせた。

 相手が全く抵抗しなかったとなれば、安易な殺害は大義のない暴力での解決ということになってしまう。

 それは教義に反する行動だ。理性を失い、暴力に訴える行為は最大級の悪徳とされている。

 これは民や善大王に対する言い訳であると同時に、兵が自分に言い聞かせる屁理屈なのだ。教会の影響の強いライトロード人が殺人を嫌うことは、戦争最中にさえ懺悔を行うことからも見て取れる。


「宰相シナヴァリア、貴様から宰相の役職を剥奪する」

「……分かった。それが望みというのであれば、応じよう。後続のアテはあるか? 引継ぎが必要とあれば、書類に起こすが」

「ふんっ、売国奴(ばいこくど)が案ずる必要などない! 我々は貴様の手など借りるつもりはない」



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