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結局、本部に向かってみたものの収穫はなかった。
これは善大王の名を出し、フィアの能力で調べた上での戦果である。つまり、誰一人として会長の居場所をつかんでいないのだ。
とはいえ、土産なしで帰るのも癪だと、二人は町を歩いて回った。
「それにしても、会長さんって謎が多い人なんだね。組織のせいかな?」
「その単語を口に出すな、と──っても、あいつは組織云々で情報を秘匿してるわけでもないだろうよ」
「そなの?」
「ああ、ダーム商会は雷の国で最大の規模を誇る商会だ。つまり、会長はミスティルフォード全体で見ても十指には入ってくる金持ちだ」
それが意味するのは、王家に並ぶ財力を有した人間、ということである。
建国が自由に行えるわけではないにしろ、領地内に小国家を作ることさえ可能な者が、ただの民間人であり続けるというのは珍しい。
天の国のルスナーダ、水の国のブランドーなどは小国家を作っている例であり、貴族などを取り込むことで王家に肉薄する影響力を保有している。会長もこれが可能な立場といえば、その凄まじさが分かることだろう。
「お金持ちだと、情報隠さないと危ないの? お金取られちゃうとか?」
「……取られるのは命だな」
あまりに物騒な話に、気の抜けていたフィアも引き締めなおした。
「お金を一気に取る為?」
「金銭問題なら簡単だ。ただ、命を奪おうとする奴らは恨みを持っている連中なんだよ。だから、金を渡して円満解決ってことにはならない」
「恨み? そんな悪いことしてるの? 紙にはそんなこと書いてないけど」
「んなもん見なくても想像できる。金持ちになるってのは、それだけ多くの人間を踏みつけてきたってことなんだよ。貴族もその点でいえば同じだ」
それこそが弱肉強食の世界であり、彼自身もその原理に基づいて生きている。
だが、貴族では問題がないことを、商人がいちいち対策しているというのは奇妙に思えるだろう。
「貴族ってのは、王様から認められただとか、高貴な血だとかの後ろ盾を持っている。そういう国は教会の存在も大きく、民の倫理観もそれなりに良好なんだよ」
「りんりかん?」
「フィアだって悪い奴を見ても、すぐに殺したりはしないだろ? 注意して、それでもやめなかったら捕まえて、それでも駄目ならようやく殺す……そんな面倒なことをいちいちするだろ?」
「えっ? 私はライトがいじめられてたらすぐに殺すよ?」
「そりゃお前が異常だ──いや、引きこもりだったから教会の影響を受けていないだけか。ふむ」
さりげなく常識もろくに身に付けていない奴、という評価を下したのだが、フィアはその重要さに気付いてさえいなかった。
「まぁ、普通の人達はどんな汚い手を使ってでも勝てばいい、とは思わないように育てられているんだ。雷の国はその文化が薄いからな──恨みがあれば相手を倒し、自分の手で復讐をしろってのが暗黙の了解だ」
「なるほど! って、雷の国そんなに物騒だったの?」
「そりゃライカが何度も誘拐されるくらいだぞ? 平和な国のはずがないだろ……っても、これはこれで良さもある」
ここまでひたすらに扱き下ろしてきたのだが、善大王はそれを擁護するように補足する。
「雷の国は良くも悪くも金が第一なんだ。貴族に生まれなくても、金さえ持ってれば同じような扱いを受けられるわけだな。どんな奴にでも平等な機会が与えられる、ってのは良いものではある」
「なんか金、金、金! って意地汚い気がするけど」
「それがここの秩序なんだよ。最上級術を使える農民がいるとするだろ? でも、そいつは農民だから貴族にはなれない、それが普通の国の在り方だ。その不満についてはフィアもよく知ってるはずだ」
「強ければいい、ってのは私も思ったけどね──学園で」
子供の社会で容赦なく力を発揮した結果、多くの学友から嫌われたという経験を持つだけに、彼女もそれなりには理解していた。
「よしっ! じゃあ光の国もこういう国にしよ! うん、そうしよ!」
「馬鹿言え、宗教大国の光の国でいきなりラグーン化を進めたら、社会が追いつかなくなるぞ。フィアみたいに気遣いのできない奴らが量産され、国はそう言った連中を取り扱いかねる。まぁ、物事はほどほどに、だな」
「ほどほどって一番難しいことなのに──あれ? 私、またひどい言われ方してない?」
 




