数多の光
──雷の国、北部の都市イルミネートにて。
「まさに光の町って感じだね」フィアは呑気に言う。
「光の国としてはお株が奪われた感じだな」
一行が到着したのは、雷の国の中でも発展の著しい都市だった。
名や町並みから分かる通り、この都市の主力産業は電気によって動く照明だ。他国での普及率は低調だが、術によって電気を生み出せる雷の国では相当なシェアを握っている。
この場所こそがその本流であると主張するように、町は明かりに満ちており、無限のエネルギーでそれらを賄う光の国にさえ肉薄していた。
ただ、無限の所行を有限で真似ようとしているのだから、帳尻を合わせる為の負担は計り知れないだろう。
「しっかし、懐かしい風景にも感じるが、無駄極まりないな。俺が領主だったらこんなことしないぞ」
「懐かしい? ……そう言われてみると、光の国を出発してからだいぶ経ったしね」
「ああ、そういえばそうだったな」
二人は忙しさに追われ、時を数えることさえ忘れていた。かれこれ数ヶ月単位の時間が経過しており、その間に彼らが行ったことの数々は、大陸に大きな影響を与えていた。
傍目から見れば、それほどまでの偉業を短期間で済ませたという風にも見えるが、今を生きる彼らからすれば十分に長い時間である。
「で、なんでここに来たの?」
「そういえば説明してなかったな」
「お金のこと? ……でも、ハーディンさんのところにしては、すこし行き過ぎじゃない?」
「向こうには通信で用件は伝えてある。今頃は大忙しだろうしな、会いに行くのは遠慮しておこう」
「じゃあ、別の人? あっ! 二人からお金を取れるって言ってたよね。もしかしてそれ?」
一から説明する必要があると考えていただけに、善大王はフィアの成長に驚いていた。
「(あの会話の内容をちゃんと覚えていた……その上、簡単な推理もできている。立派に成長したものだな──それはそれで、可愛げに欠けるが)」
彼は父親のような哀愁を漂わせつつ、本当は説明しながら見せようと考えていた紙を彼女に手渡した。
「うーん、どういうこと?」
「見直した俺が馬鹿だった」
どうにも、彼女の能力は彼への愛情が底あげしたものにすぎなかった。
書かれている内容が知りもしない人物のものだというのだから、人間に無関心な彼女がやる気を出さないのは当然のこととも言える。
「ダーム商会の会長、その身辺調査記録だ」
「ふぅーん。誰が作ったの?」
「お前本当に興味なさそうだな──一応、ハーディンにやらせておいた。組織の繋がりについても、俺達が調べるよりは明確なものになるだろうしな」
「私が調べたほうがもっとすごいよ!」
「だーかーら、それをやると厄介なことになると言っただろ。フィアの能力は答え合わせ用。基本的にはその前提で会話はできない、分かったか?」
「わ、わかったの」
その特殊な例というのが、彼の名が轟いていた冒険者ギルドだったわけだが。
少なくとも、今回はそうした繋がりは乏しい。ただの善大王として動くからには、なるべく現実で公開されている情報を使って説き伏せなければならない。
「あれ? お家はここじゃないんだね」
「みたいだな。ま、こんな悪趣味な町になんか暮らしたくないだろうしな。向こうの家はこっからさらに北に行った、割と静かな村らしい」
カーディナルの例などからして、都市の主は居城のようなものを建て、暮らしているように思うだろう。事実、そのような形式を取っている者が過半数だ。
ただし、雷の国のような商業中心の国家では他国の常識は通用しない。良くも悪くも、この国では教会の教えよりも、勝ち取る利益の方が影響力を持ってるのだ。
それ故、礼拝所の数は圧倒的に少なく、訪れる者も少数だ。極端な話、大物商人達は神を信じてすらいないという具合だ。
神頼みなどの弱者の愚行。自身を救うは自分、勝利は己が力で勝ち取るべき、それこそが雷の国の在り方なのだ。
善大王よろしくの合理的な思想ではあるのだが、教会による倫理矯正がかかっていない為、恨みを買った場合には命の危険も増える。
それを防ぐ為、大商人や大富豪は僻地に住むことが多い。複数の別荘を飛び回り、家の場所は伏せたままということも多々ある。
「あれ? じゃあなんでここに来たの?」
「一応、商会本部にいるかもしれないからな」




