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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
712/1603

14f

 言い争い、睨み合う二人に対して、ティアはなにも言えなかった。

 彼女はガムラオルスが危惧(きぐ)した通り、統率者としての知識や意識が欠けていた。

 だからこそ、親と想い人の対立を止めることができなかった。どうすれば止められるのか、それが分からなかった。


「ガムランがそう言うなら、私じゃなくてガムランが……」

「それは認められない」と族長。

「でも、よく分からないけど、私じゃうまくやれなさそうだし」


 ガムラオルスは、なにも言わずに黙っていた。彼女に便乗し、その意見を押し通させれば目的は達成できるというのに、それをしなかった。


「案ずるでない。不足は皆で(おぎ)えばいいだけのことだ」

「でも……」

「私情でティアを長にしたと思うのか?」


 族長はそう言いながら、候補の一人だった青年を一瞥する。


「そう……じゃないの?」

「ティア、お前をカルマの生まれ変わりのように喧伝(けんでん)してみせたのは、皆を奮起(ふんき)させる為だった。しかし、それだけではないのだ」

「では、何だという」ここに来て、ガムラオルスは口を挟んだ。

「カルマは長い時間を地上で過ごした。冒険者として、女騎士として、多くの人々から尊敬され、必要とされた。だが、彼女は風の一族の人間であり続けたのだ」


 ティアは依然として理解していない様子だが、もう一人は言わんとしていることを察し、顔を(しか)めた。


「如何なる場所にあっても、どれだけ高い地位に昇り詰めようとも、彼女は常に自分を保ち続けた。地上に染まり、地上の法則に呑まれることもなかった」

「外の文化に(かぶ)れた者は異分子、とでも言いたいのか?」

「逆だ。ティアが異常なのだ」

「なんだと……?」

「私はせがれがカルマの後継者になりうるのではないか、そう考えていた。だからこそ、無謀な貴族が押しつけた外の書物を渡し、力をつけさせた」


 かつて憧れていた人物の姿が()ぎり、青年は沈黙する。


「外の世界に行きたいと望み、それを族長に告げるなどという愚行を犯した者など、いままで見たこともなかった。だがそれは、伝説のカルマの軌跡をなぞっていた。だからこそ、信じた」

「あの人は一族の誇りではないのか? このような僻地に置かれながらも、外で高い地位を勝ち取った──」

「あれは地上に迎合しただけにすぎない。そしてせがれもお前も、同じような道を辿った」


 シナヴァリアのその後は、既に知るところだろう。

 彼は地位を得た後、風の一族を解放する為の力を求めた。光の国の宰相となることで、国家を運営していく知識を身につけた。

 その結果、自分の故郷を光の国に売り、長い歴史に終止符を打とうとした。完全なまでの裏切りだった。


 ガムラオルスの思想を引用すれば、歴史とは細部の異なった繰り返しである。つまり、彼の行動も風の一族の歴史を終わらせるものになりかねないのだ。

 そうと分かっていて、彼に自由を許したのは──ティアが戻らなかったからだ。彼女さえも地上に染まるような状況であれば、遅かれ早かれ一族は消滅する。

 その際には、この山に住まう者の命を優先し、自ら外の文化に迎合する覚悟を決めていたのだ。

 連れ戻されたティアが彼女であり続けたことにより、この展開は覆されることになった。この時点で、折衷案成立の道は完全に閉ざされたということである。


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