表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
710/1603

13f

 ──風の大山脈、本家の里にて……。


「──我ら風の一族は、大きな脅威と対峙している。それは古き時代、カルマの時代のものに匹敵するやもしれぬ」


 ウィンダートの演説を聞いていたのは、山に住まう風の一族──その全員であった。

 群衆の集いは少数精鋭という印象を抱かせる一族とは相反し、里の外にまで人があふれているほどだった。

 中には女子供も混じっている。彼ら、彼女らもまた戦士であり、立派な戦力の一つであった。

 全員が全員、老若男女の誰もが伝説上の部族にふさわしく、高い身体能力を有していた。故に、長の顔さえ見えぬ場所にあっても、これを聞き取ることを可能としていた。


「そうした危機の中、我らは再び一つとなり、脅威に立ち向かおうとしている──だが、今のままではそれも完全な形とはいえない」


 皆が息を呑んで見守る中、一人の少女が長の隣に並んだ。

 彼女はそれまでの戦闘民族──時代遅れの者達ともいう──らしい格好ではなく、一族内で言っても特異な姿をしている。

 長い袖やスカート、アンダーウェアが透けて見えるほどに薄い布地など、おおよそ戦闘衣とは思えない要素が多く、風属性の属性色である緑色の染めが唯一の共通点とさえ思えた。


 これが地上の貴族などが趣味で行っているのであれば、十分に理解もできよう。しかし、ここは世間の流行さえ知らぬ、閉鎖的社会の代表──風の大山脈だ。

 しかし、年老いた者達はすぐさま反応した。年甲斐(としがい)もなく興奮したというわけではなく、あり得ないものが目の前に現れたといった様子だ。


「あれは……」

「カルマ様の衣じゃ」


 そう、この衣装は古き時代──今より何百年も昔の時代に作られ、使われたものだった。

 伝説の英雄として伝わるカルマ、その彼女が強大な魔物との戦いの中で身に纏い、そして遺していったものだった。

 その存在を知る者は少なく、老人達でさえその実在を信じてはいなかった。


「その通りだ。今ここに、風の一族は《風の巫女》であるティアを頂点とする。如何なる場合にあっても、彼女が命じた際にはそれを最優先とせよ」


 常識的に考えれば、横暴もいいところであった。

 最上位命令権を持つ族長が、それを自身の娘に委譲したとして、彼が特別利益を得ることには繋がらない。

 そうであっても、長をこのような少女に据えるというのは、誰もが納得できるものではないだろう。


 普通であれば、これは成り立たないのだ。普通の──地上での常識が存在していれば。


「ああ、巫女様! 我らをお救いください」

「風神様に選ばれた巫女様であれば、私達を統べるには相応しいお方だ」


 ウィンダートが当初に予想した通り、全員がこれに協調した。

 ガムラオルスの構築した防衛計画により、里は大きな被害を被っておらず、人的損害も数えられる程度に止まっている。

 それにもかかわらず、彼らは本能的に救いを求めていた。過去に英雄(カルマ)がそうしたように、根源を抹消してくれることに期待しているのだ。


「(これが閉鎖的社会の在り方、か)」


 高揚する群衆の中、《風の太陽》は一人醒めた様子で状況を見ていた。


「(民が神や英雄に(すが)るような時は、その集団が敗色(はいしょく)濃厚になった時だ)」


 古き時代と今の時代、その大きな違いはここにあった。

 かつて災厄が襲った時には、カルマだけが外の世界を知っていた。だからこそ、彼女は一族のなかでも突出した存在となれた。

 だが、今は違う。ここにはガムラオルスという、もう一人のカルマを継ぐ者がいた。一族の危機的状況を第一に打開させたのは、他でもなく彼だった。


 皮肉のように生まれてしまった、二人の最強(・・)。その矛盾に、未だ誰も気づいていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ