7
夕方、生徒の全員が家に帰った頃、少女は再び教室に戻ってきた。
「やぁ」
「あの、善大王様……特別な講義って」
「なに、緊張しなくていい。……君の発言、とても良かったよ」
言い、善大王は金髪ポニーテールの少女の隣に立つ。
「善大王様に誉めてもらって、嬉しいです」
「君は賢いだけじゃない、とても可憐だ。講義の最中も、君のことが気になっていた」
少女は善大王の顔を見る。それが嘘偽りを言っているようには、とても思えなかったようだ。
「(なんで、善大王様が私みたいな子を)」
「自分にもっと自信を持って良い。君は可愛い、とても。だから……」
肩を抱き、善大王は少女の頬に自分の頬を近づける。
吐息すら届くような距離に迫り、少女は恥ずかしさを覚えた。
「善大王様、こういうのは……よくない、と」
「可愛いよ」
高鳴る少女の鼓動を完全に知覚し、口許を緩める。
「なぁ、俺の方を見てくれないか?」
少女が顔を横に向けた瞬間、善大王は口付けを交わした。
紳士的な、唇だけの接触。それだけでも、まだ幼い少女は激しく混乱した。
ただ、その混乱を収める技術も善大王は持っている。優しく少女を撫で、安心させるように柔らかく抱き締める。
「じゃあ、特別な講義をしようか」
少女の制服をはだけさせると、そのまま教室の床に押し倒した。
「ライト!」
ドンッ! と扉が開け放たれる。
後光のように夕日の橙色が差し込み、うっすらと影のかかったシルエットの少女が現れた。
長い金色の髪は扉を開ける動作に連動してか、靡いている。空色の瞳は煌きを秘めながらも、目元にはそれ以上の輝きが宝石の粒のように存在していた。
「ライト……なにやってるの」
フィアの登場を確認してもなお、善大王は焦ることもなく優しく少女を地面に寝かせ、何事もなかったかのように服を整えながら近づく。
「やぁフィア、どうしたんだ? 外出、それも学園に来るなんてお前らしくもない。もしかして、俺のことが気になったか? いや、言わなくても分かる。そうだろう?」
「また、私以外の子と遊んだの?」
「人聞きの悪い。俺にとっての運命の相手は、お前だけだ」
そう言い、善大王は平然と接吻をしようとした。
「最低! 最低ライト!」
善大王は全てを察し、振り返った。
「じゃあ、ここら辺で特別講義に移るとしよう。術は順列が高ければ高いだけ強いのだが、それは絶対ではない。鍛え上げることで、低順列でも実戦に通用する威力に到達する──それで、今から見るのは、とても珍しい天属性の術だ」
教師としての最後の一声を終えた途端、空気を引き裂く音が教室に響き、夕日とは違う橙色の閃光が煌いた。
大空のフィア 前編・完