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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
705/1603

8t

 ──雷の国、ラグーンにて。


 ライカは贅沢品に変わり始めた菓子類を(むさぼ)り、王家の特権とばかりに空腹を甘味だけで満たした。


「やっぱり、シゴトなんてらしくねーし」


 シゴトというと魔物との戦いを想像しがちだが、彼女の場合はヒルトの子守り──と言えるかは怪しいが亜──のことを指しているようだ。

 時間を自由に過ごし、したいことをし、休みたいときに休む。それこそが彼女にとっての安息であり、それは戦争の最中でも変わらない。


 ──だが、その安息は子守りの最中も得られていたのではないだろうか……。


 食後の運動とばりに、城地下町へと赴こうかとした刹那、彼女は気を害する音を認識した。


「(あのクソ女の通信だし……)」


 渋々と通信術式を開くと、応答した。


『よっ、ビリビリ姫。最近はどーよ?』

「アンタのせいで最悪だし」

『そりゃ結構だねぇ──で、本題に入るとするかね。闇の国の連中、そろそろ帰るみたいだよ』


 あまりに突飛な話題に、ライカは扉に掛けた手を引っ込めた。これは散歩しながら聞く話ではないと判断したのだろう。


「帰るって、どこに(かえ)んの? そもそも、なんでそんなことになってんの」


 二人が連絡をしたのはスワンプ侵略の少し前であり、それからは音信不通となっていた。

 そんな状況からいきなり撤退の話が飛び出したのだから、経過を知らない電撃姫からすれば驚きどころの話ではない。


『そりゃ、闇の国にさ。本当は雷の国の港を借りるつもりだったんだけどねぇ……なんと! 闇の国から迎えの船が来ていたってわけさね』


 ツッコミどころの多い言葉だったが、少女はその中でも重要なことから処理──することはできなかった。


「はぁ? なんでラグーンがクソみてぇな国の手助けをしなきゃなんねーし」

『そうカッカしないことだよ。苛立ちはチビを加速させるよ』

「はぁああああああああ?」

『ま、本音で言うと連中が自暴自棄にならないようにだよ。もうバテバテだったけど、それでも民間人を襲うくらいは易々(やすやす)とできるような奴らだろうしねぇ』


 聞こえはいいが、これも建前である。彼女としては支払いを反故(ほご)にされるのが恐ろしかったのだ。


「んで、迎えってのはなんのことだし」

『火の国のヴァーカンって場所に、船が来てたってことさね。崖っぷちに上陸して、そこからオーバーハングありの断崖絶壁をクライミングしてきたってさ……いやぁー闇の国ってのはすごいところだねぇ』


 ()り出した岩壁、というのもなくもなかったが、さすがの彼らもそこは避けていた。そういう意味では誇張を含めた言い分だが、やろうとすれば十分可能なことだろう。


「……それで、アンタは今どこにいんの?」

『えっ? 今はヴァーカンだよ。まだみんな出発してないしねぇ』

「はぁ? もしかして連中の前で通信してんじゃ──」

『いえいえ、わたくしが部隊の皆々様にはご遠慮していただきましたので、聞き耳を立てている方はおりませんのよ』


 長い沈黙が入った。

 アカリが馬鹿げた演技でお嬢様風を装っていただけであれば、憤りのままに通信を切るだけで解決していたが、その声は明らかに彼女とは違っていた。

 そして、その声にはいやなほど覚えがあった。


「アンタ……ライム?」

『ええ』

「おいクソ女! 勝手に敵国のオンナに内通しやがって!」

『あらあら、ライカちゃんの口調はずいぶんとひでー(・・・)ものになっているようで。むしろ、あの声の脅しを受けていてその様子なのですから、お元気そうでなにより──と、言うべきですわね』


 ある意味、本質を突いていた。

 あの後のライカの自暴自棄で、絶望に満ちていた状態と比べると、この荒れきった態度でさえまだマシと言える。


『ありゃ、まずかったかい? なんでも《星》のダチってことだから、通じているもんだと思ったんだけどねぇ』

「はぁあああああ? アンタそれでも仕事人!?」

『まぁまぁ、わたくしが闇の国にそこまで肩入れしていないのも事実ですし、ここで聞いたこともあの方々には口外しない──ということで、満足ですの?』


 電撃姫はその名の通り、今にも通信越しに電撃を送りかねない勢いだったが、彼女は重要な事実を忘れていた。

 戦争開始からしばらく経ったが、ライムだけは誰とも、一度たりとも接触を取ってこなかったのだ。

 もしも彼女が味方であるとすれば──そうでもなくとも、その真意を探る貴重な機会が生まれていると言える。


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