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「(うっわ──とってつもなくムサい連中だねぇ)」
アカリはそのような、まるで普通の女子が抱くような感想を胸中に留めながら、引継ぎを行おうとした。
「君がこいつらを助けてくれたのだな?」
「……ま、そんなところさ」
敵国──というより、他国民か──の人間が助けるはずもない、という前提を一切鑑みず、状況的な判断だけでそう言っていた。
そんな普通ではあり得ない判断を下さない相手でなければ、彼女は余計な説明の手間を負っていただろう。だからこそ、否定的な言葉や弁解は述べなかった。
「君がどこの誰かは知らぬが、感謝する。我が同胞をよくぞ助けてくれた」
「ええ、まぁ」
「他国民がこのような思いやりを持っているとは、第一部隊部隊長、カッサード……これほどまでにない感動を覚えておるぞ」
仕事人は目つきを変えた。
「(この隊長、状況を全くみてないわけじゃない。闇の国がそれ以外の国と敵対関係であることを……正しく認識しているみたいだねぇ)」
ただのお人好しではない、ということを理解したというと大したことでもないように見えるが、彼女の場合はその先の──相手を脅威とさえ捉えてないが故の余裕、という地点まで察していた。
彼はアカリを尊重しているかのような態度を取ってるが、それでも隙は一切生まれていない。もし、不意をついて攻撃を行おうとしても、防ぎきれるだろう。
いや、事実はどうであれ、長年戦場に生きてきた彼女にそう思わせるだけの気迫が放たれていた。
「(この肉体からみて、闇の国らしくはないけど近接使いみたいだねぇ──たぶん、先輩より強い)」
知略、術による戦闘能力、これらは当然のように勘定から外されている。
ただ、単純な近接能力が風の一族──さらに、その中でも優秀なシナヴァリア以上と認識される時点で、如何に人間離れしているかが分かるだろう。
言うまでもないが、戦力分析は魔力を介在していない。幾多の戦いにより培った経験による、類似場面との照合で敵の戦力を探っているのだ。
──念を押しておくが、彼女のそれは大きく間違わない。
第一部隊の人間と思われる強面な男達に搬送され、第五部隊の隊員達はあっという間に砂漠から姿を消した。
すごいとしか言いようがないのだが、一人で三人を同時に運搬していたというのだから、アカリも乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「さて、これで全員を運び終えたな!」
「そう、ですねぇ。ハイ」
無自覚に危機を察知したのか、子守りの職場で出会った奇妙な商人を思わせる口調になり、同調を示した。
「さて──君の名を聞かせてもらいたいものだ! もちろん、構わないな?」
「ええ、そりゃもう。わたくしはアカリといって……ハイ、その──困っている人を助けて、小銭を稼がせてもらってる、しがないなんでも屋でして……ハイ」
「なるほど、つまりは金銭契約があったわけだな。ウン、分かるぞ分かるぞ」
「ええ、まぁ……そうですね」
「それで、幾らほしいのだ? 望む限りの額を支払おう!」
見た目通り──というより、中年らしくもない生き生きとした様子から分かる通り、カッサードの提案は豪快であった。
常のアカリであれば、当初の報酬の数倍をふっかけるところだが、声量の大きさなどに気圧されて素直な数字を紙に書いて手渡した。
「──と、なっております。もちろん、第五部隊の方も了承の額でして」
「構わん!」
「えっ?」
「構わんと言っているのだ! アカリといったな、君は素晴らしい仕事をしてくれた。ならば、胸を張って要求するといい!」
「あー、そうですね。大陸の貴族サン達は部下のこととなると冷たいモンで」
「そういうものか。だが、闇の国は違う! 血の繋がりはなくとも、奴らは我が身内も等しいのだ! そして君が身内の恩人であるならば、最大限の御礼をするのが義というものだ! マナグライド流の礼儀を、君には知ってもらいたいのだよアカリ君」
そう言うと、将軍は自分の親指を噛み、あふれ出した血で報酬の額を倍額にして突き返した。
「この額は支払おう! 無論、現物支払いだ! 物入りがあった時の為に積んできた金貨がある、それをすぐに手配するぞ」
「ど、どうも」
予期せぬ支払いに驚きながらも、彼女は押し寄せる「儲け、儲け」という喜びを瞳に宿していた。
「(にしても、五大国家に喧嘩ふっかけておいて……その上、魔物とまで組んじまうような連中がこんな熱血集団だったなんてねぇ。人は見掛け──立場によらないってことかねぇ)」
少なくとも、第五部隊は彼女の思うとおりの悪者であった。故に、この第一部隊──それも、カッサードが率いる者達だけが特殊なのだろう、と彼女なりに結論をつけた。




