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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
702/1603

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 ──早朝。火の国、ヴァーカンにて。


 赤炎は龍の姿を取り、眼前にある標的──皮肉なことに、相手も龍だ──を飲み込んだ。

 炎の奔流は同一属性の相手であるにもかかわらず、その身の残骸一つを残さずに焼き消した。《選ばれし三柱(トリニティア)》の最上級術(そば)ということを考えると、驚くことではない。


 戦いが終わると、すぐにアカリは歩きだし、後方で口を開けていた者達もそれに続く。


 水の国であれば霧に覆われてそうな朝だが、そこは水気の乏しい砂漠だけはあって視界は良好だった。

 一団はアカリを先導者とし、ここまで辿りついた。

 ここがいくら国境から近い場所とはいえ、戦前──今もなお、そうではあるのだが──は上級冒険者を連れていなければ入ることさえできない土地だっただけに、《星霊》との接触は幾度か発生している。

 本来なら適当に支援するだけに留めるアカリだが、部隊の疲弊がカバーできない範囲に入ったと判断した段階で、自ら全ての先頭を請け負った。


「(全く、損な仕事だよ)」


 と、本人は非常に不服そうではあったが、闇の国と敵対している国家群からすれば、最良の選択であった。


「ああも容易(たやす)く……」

「ヘルドラゴさえも一人で討つとは……」


 などなど、隊員達は疲労困憊ながらも、自分達が戦っている相手のとんでもなさを理解した。

 彼女は雷の国に仕えていた人間であるが、それは利害による関係だと彼女は口にしていた。

 つまり、闇の国の外ではこのような強力な使い手が、ギルドにさえ属さずに存在しているということが露わになったのだ。無論、彼女が特異な例であるのは明白だが、彼らにそれを確かめる術はない。


 ずいぶん前から視界には収まっていたヴァーカンだが、こうして走ればすぐ、という距離に辿りつくまでにはかなりの時間を要していた。

 しかし、不幸なことに男一同はすでに疾走するだけの余力もなく、手を伸ばせば届く希望を前にしても歩みを同じくしていた。彼らの状況を考えると、その方が適切ではあるのだが、気力面を考えると合理云々(うんぬん)では片づかない問題だ。


 だが、幸いなことに迎えは訪れていた。闇の国の人間──という触れ込みだけで想定していたアカリからすれば、それが本当に該当する存在なのかは怪しいものだった。


「あれ、第一部隊の連中かい?」

「あぁ……ああ! カッサード将軍だ!」


 隊員の一人は言われるまで気付いていなかったのか、先導者の声掛けに呼応して復活した視力で、改めてその人物を確認した。


「間違いない! あの肉体は第一部隊だ!」

「なんだと!? ……本当だ!」

「将軍だ! 俺達は……助かったんだ!」


 これこそが、彼女が引きずってきた部隊の状態だった。正気を保っていたのが彼女一人だった、というのは驚きかもしれないが、それこそがプロというものである。


「ペースは乱すな。このままの速度で進むぞ」


 そう言ったのは、バロックだった。彼の表情から驚きは汲み取れず、だからといって感情の波を生み出せないほどの疲れも見えない。

 仕事人と同じく、彼もカッサードの存在を認知していた。その上で、ペースを崩さず、安堵という幻に身を任せて破滅しようともしなかった。


「(このオッサン、意外とダメダメってことでもないみたいだねぇ)」


 闇の国が超長距離の行軍に慣れていないのは、彼らをみればすぐに分かる。だが、バロックだけ──現在意識を失っているディードは知れないが──がその例外というのは、少しばかり奇妙に見えた。


 彼らの期待した展開か、満身創痍の同志が無茶をしないようにと、カッサードを含んだ筋肉質な男達が走ってきた。


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