二人のエルフ
「お兄さん、楽しかったね」
「ああ、俺も楽しかった。今日はありがとう」
十一才くらいの女の子と宿屋を出た俺は、お礼金として数枚の札を手渡し、別れた。
「いやぁ、満足満足……これで仕事も」
「善大王様、またですか?」
「あっ……ノーブル、仕事はどうしたんだ?」
「善大王様こそ、勉強するはずではなかったのでは?」
善大王に就任してから四ヶ月。その期間中、ほとんどの仕事をノーブルに任せ、俺は仕事内容の確認をしていた。
当然、ずっと勉強ばかりしているわけにもいかないので、こうして時間を作っては城下町の子と遊んでいた。
自慢ではないが、ナンパテクニックは冒険者時代に培っていた為、所要時間はそこまで掛からない。
基本的には一回限りの縁。いい感じの子であれば二度三度遊ぶこともある。
「善大王様は皇となったことを自覚していただきたい。悪癖が以前からのものだとしても……」
グチグチと説教を受けながら城に戻り、俺は執務室に閉じこめられた。
「明日まではここで仕事を続けてください」
「分かっている。初めからそのつもりだ」
ノーブルが部屋から出ていくのを確認すると、早速書類の処理に移った。
翌日、ノック音が聞こえ、俺は目を覚ます。
「どうぞ」
「善大王様、仕事の進みは……」
積まれていた数百枚の書類をほとんど処理し終え、残る数枚を放置していた程度。
「まったく……できるのならば初めからやってほしいものですな」
「仕事には気晴らしも大事だろ?」
俺は基本的に何でもできる。幼女にモテたいが為、運動から座学、仕事から作業に至るまで、ほとんどを完璧に取得していた。
もとより、善大王としての仕事も一週間やそこいらで完全に把握していたが、使える手札は使おうとノーブルに頼っていた節がある。
「これならば、安心して任せられそうですね」
「どういうことだ?」
ノーブルはいつもの厳しい顔を緩めると、優しい老人のような顔になった。
「お忘れですか? 私は今日で引退ですよ」
「ああ、そうだったな。……って、これからの宰相は誰になるんだ? 無能を寄越してくれるなよ、俺が仕事を任せられなくなる」
「仕事をやめていこうという者の前でサボりの算段をたてないでください。……ですが、無能な者ではありませんので、心配はございません」
「ほう、どんな奴なんだ?」
「善大王様もよく知っている男ですよ。……入れ」
ノーブルが指を鳴らした途端、扉を開けて一人の男が入ってきた。
「お、お前は!」
深緑の髪、泣いている子すら黙らせる仏頂面、睨むだけで兵を凍てつかせる眼光。
「宰相を引き継ぎました、シナヴァリアです」
「いや、そりゃまあ知っているが……うん、だがお前ならば安心だな」
元暗部の隊長にして、騎士団の鬼教官。そして、俺が聖堂騎士だった頃からの友人。
この国で言っても、シナヴァリアはかなり有能な部類に入ってくる。年齢が近いこともあり、話は比較的合う方だ。
「では、これにて老兵は去りますよ」
「ああ、ご苦労だった」
去っていくノーブルを見送った後、俺はシナヴァリアに耳打ちをする。
「まさか、お前が宰相になるとはな」
「光栄な限りです。では早速、こちらをお願いします」
シナヴァリアは脇に挟んでいた分厚い書類を俺の机に叩きつけてきた。
「明日までにお願いします」
「おい……勘弁してくれよ」
「ノーブル氏より、善大王様には厳しく、と」
「あのクソ爺……! ん」
俺は先日分の書類を見た時、考えを止めた。
「鍛冶屋にてエルフ監禁疑惑が浮上。ただちに対処を……か」
席を立つと、押しつけられた書類をシナヴァリアに突き返した。
「この事件の対処に向かう。仕事を任せていいか?」
「騎士団を向かわせれば済む問題かと。信頼がないのであれば、聖堂騎士を向かわせればいいのでは?」
「可能な限り自国民で問題を起こしたくはない。穏便に済ませられるならば、その方がいい」
そこまで言うと、シナヴァリアは仕方がなさそうに書類を受け取った。
「では、聖堂騎士三人を連れて行ってください。可能な限り早期の解決を」
「当たり前だろ」
執務室を後にし、俺は三人の聖堂騎士と合流した。