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「……となると、放置ですか」
「まぁそうなるな」
《盟友》の一同は落胆するが、善大王は飽くまでも楽観した様子で語る。
「まぁそう落ち込むなよ。俺達は、もう連中の狙いが分かってるんだよ」
「狙い……?」
「ああ」
彼の言い分は政治屋としてのものではなく、事実に基づいたものだ。
フィアを別行動させた理由もそれであり、この発言の情報元を悟らせない為のものである。
つまるところ、能力を発動させたのだ。フィアが周囲の人間の情報を引きずり出しさえすれば、現状を暴き出すのはそう難しいことではなかった。
「率直に言うとだ。ここにいる闇の国の連中は、今もなお大陸に残留している同胞を引き取るべく行動しているようだ」
「……あの国は、人間を使い捨ているのではないのですか?」
「俺も連中の考えが分かってるわけじゃないさ。ただ、少なくともここの奴らはそれを狙いとしている。ついでに、その回収する部隊はかなり近づいているらしい」
これには驚きというより、恐怖が先行した。
カーディナルを居とする《盟友》達からすれば、敵の軍が領地の近くを通ることが嬉しいはずもない。むしろ、防衛計画を立てなければならないほどだ。
「善大王様、その情報はどこで入手しましたか? もしもそれが推論ではなく、確定した事実だとすれば、こちらとしても対策を打たなければなりません」
「フィアが聞き込みをしてくれたんだよ。こいつは子供だから秘密だって聞き出しやすい。それと、下手に準備しているような態度を取るのは得策じゃないな」
「……」
「連中としては、帰還するという路線は確定的らしい。それに、本国からいちいち馳せ参じるほどだ……きっと、ひどく疲弊しているんだろう」
ここで推測が入ったが、これに関してはフィアの能力を持ってしても詳細を調べることはできなかった。
そもそも、ヴァーカンに待機している第一部隊は第五部隊の壊滅的な状況を理解しておらず、来る者を救って帰ると考えているのだ。詳細な状態を知る気さえなかったのだろう。
「ちなみに、その時期は……」アリトは諦めがちに食い下がる。
「そりゃ分からん。ここの連中は気合いとか根性とかで動いていやがる。作戦計画もひでーもんで、まぁその内とか近々とか曖昧なもんだ」
「まさか……彼らは本当に闇の国なのですか?」
「一応は、そうらしい。俺としてもこんな連中を相手取っていたつもりはないんだが」
小さな恋人が拾ってきた根拠を直に聞いた彼でさえ、あまりにも想定に収まらない相手に困惑を隠せなかった。
「なぁ大将、やっぱりこんな話は……」
「いえ、善大王の意向に従いましょう。きっと、我々では思いつきもしないような策があっての言葉、だと考えています」
「まぁ、心配かもしれないが信じてくれ」
こうして、表だって交戦することもなく、善大王はヴァーカンを去ることとなった。
恨めしげな顔をしていた《盟友》の隊員達を視認しながらも、あえて気には止めなかった。
最初こそは徒歩で次の町を目指そうとしていたのだが、そこはアリト、行きに使った馬車を彼に貸し与えると提案した。
ここまで救いを与えなかった者に対しても善人としての面を崩さない辺り、やはり彼は根っからのお人好しなのだろう。
「なんかアリトさんに悪い気がするね」
「っても、ティアが負けるような相手に挑むのは、ただの無謀というものだ」
現に、彼女との勝負では勝ち星のない彼では、カッサードに勝利できるかどうかは怪しいところだろう。無論、フィアが横槍を入れれば済む話ではあるが。
「というより、よくもまぁあんな演技ができるようになったものだな」
「えっ?」
「いや、ティアが負けたことに驚いていただろ? 俺がフィアから情報を聞いたのがあの後だっていっても、既に知ってることを聞いてあそこまで出来るもんじゃない……よくやったな」
そう、善大王は会話の最中──具体的には狙いを当てた時からだ──にフィアの心を読み取り、あれらの情報を共有させていた。
つまり、彼の分析はかなり真に迫っていたのであり、同時に彼女が知らないような態度を取っていたことも彼の真意を知らなかったことが原因だった。
「ライト」
「なんだ?」
「あのとき、そのこと考えてなかったかな」
「……」
どうにも、想い人の素晴らしい推理に見惚れ、自分の調べていたことさえ忘れていたらしい。やはり、彼女の視野の狭さは相も変わらないようだ。




