表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
691/1603

12w

 ──フレイア城にて……。


「(善大王、本当にやってくれてるのかしら)」


 一度は諦めた夢であり、その場限りの取り繕いかも知れない言葉に、彼女は揺れていた。

 それは疑いというよりもせっかちであり、報告がそんなに早く来るわけがないと自覚しながらも、幾度となく考えていたのだ。


「(……通信、してみる必要があるかしら)」


 体感時間としては相当待っているようだが、実際の時間はやはりそこまで経っていない。便(たよ)りが待ち遠しく、空のポストを開け閉めする子供と大差ない行動だった。


「ちょっと海に出ていたつもりだが、こんなに変わっていたとはなぁ」

「え?」


 背後から聞こえてきた声に、ミネアは素っ頓狂な声をあげた。

 見てみると、そこには本来自分の護衛を任としていた男が立っており、その表情はカップルを小馬鹿にする者のそれを思わせた。


「なによ、いたの?」

「護衛だからな」


 ちなみにトリーチが陸に戻ってきたのは──そして城に訪れたのは──(いま)(がた)の出来事ではない。

 善大王が()ってすぐ、彼はヴェルギン宅に戻ってきた。そして、元の任務を再開するように、ミネアの護衛を立派に務めていた。

 城に来る際も同行しており、ここに立っていたのもその時からである。つまるところ、ミネアは彼の存在を忘れるほどに熱中していたのだ。


「ずっと話さないが、何かあったのか?」

「……別に」

「そうか。まぁ、俺は仕事を果たすだけだがな」


 詮索をしない護衛役に安心しながらも、彼女は内心で悪気を覚えていた。


「(あんたの主を疑ってる、なんて話できるわけないでしょ)」


 実際のところ、彼はミネアが主をよろしく思っていないことを理解していた。無論、それは両方向に伸びており、彼女もその自覚は持っている。

 ただし、気に入らないと喚き散らすのと、本当に調べさせるのとでは意味が違う。前者なら感情論や好き嫌いで済む話だが、後者となると子供の悪戯にしては度が過ぎる。


 恋焦がれる乙女のように、急く想いを抑えられないミネアだが、そこだけはきちんと冷静な判断を下していた。


「それにしても、俺はいつまで子守してればいいんだよ」

「なに、不満があるなら直接言ったら?」

「ただの愚痴だ。聞こえたなら悪かったな」


 あながち嘘ではない言葉だったが、どうにもこれは彼なりの反撃らしい。

 いくら相手が巫女で姫で、護衛対象の子供だとしても、その悪態に苛立ちを覚える辺りはとても人間らしさが表れていた。


「なんなら解雇してもいいんだけど」

「そうしてくれたら手っ取り早いんだが……それで納得してくれるとも思えないしな」


 もとより、そこまで必要性を訴えていなかったミネアに彼をつけたのは、他でもなくアリトだ。

 喧嘩で解雇というやり取りは、ある意味既に終えられた行為ともいえ、それを理由に戻れるとは考え難い。


「なら黙って護衛していればいいのよ。別に必要ないけど」

(むこう)で俺が、どれだけの戦果をあげたかも知らないだろ?」

「それはそれ、これはこれ」


 カーディナルは火の国の害になるから──と大義名分をつけていた人間とは思えない手のひら返しだった。

 あの疑心がそもそも彼女の私怨に(もと)づいていたという辺り、火の国に対する貢献に関心が薄いのも仕方がないのかもしれない。


「ったく、《盟友(ブラッド)》ならこんなイライラする仕事がなくていいのにな」

閑職(かんしょく)よりは名誉のある仕事だと思うけど?」


 生意気さが増したと同時に、当時よりは元気になった姫に対し、トリーチは「(言い争いしてもしょうがないな)」と折れた。

 良くも悪くも、彼女は善大王の来訪によって変わっていたのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ