5
「《導術》の誕生についてさわりだけ復習するぞ。この術が生まれた時期は、雷の国が建国された時代とされている。初代ラグーン王が使用し、民に広めたことでそれまでの術は根底から覆されたわけだな」
これは歴史に関与するところだが、文字通りうっすらとだけは知っているようだ。
「後で説明する《魔技》と違い、この《導術》は準備以上の結果を出すものとして、今の時代まで使われている。この準備について話す際に外せないのが、《魔導式》だ」
このクラスの生徒はとりあえず全員取得している。決して難しくない技術なだけに、親しみのある存在でもある。
「導式──術を起動させる為の文字を、大昔は動物の血などで刻んでいた。そして、発動するにも宝石などを使わなければならなかった。少し後に《呪符》という、宝石などを使わずに済む技術も開発されたが、この《魔導式》の存在はそれを遥かに上回っている」
「水の国の王様が作ったんですよね」
「そうだ。二代目フォルティス王が《魔導式》を発見し、貴族階級にのみ教えるようになった。今の冒険者のような者達が使えるようになったのは、これまた初代ラグーン王の時代だな」
歴史の解釈を終えた後、すぐに善大王は本質に戻る。
「この《魔導式》の登場により、人は何も消費せずに術を発動できるようになった。導式自体に属性のある導力を必要とする《導術》とは最高の相性だったわけだ」
「昔の方法で使うことはできないんですか?」
「今も言った通り、適合した属性の導力で刻まれた導式以外では起動すらできない。一応、動物の血に大量の導力を注ぎ込み、刻むことで使うことは可能とされているが」
《導術》が出現した直後は、《呪符》を辞書のように束ね、事前に導式を刻んだものを持つ者が多かったという。
使う度に千切って使うという、使いべりする方法なのですぐに《魔導式》に取って変わられたが。
「万能にも聞こえる《導術》にも弱点がある。それは、一から二百五十五番までが確定されていることだ。極端な話をすれば、全ての術を対策される可能性がある」
「でも、七属性全てに二百五十五種類あるんですよね、だとすれば……」
「千七百八十五種類だな。まぁ、本当に全て覚えている奴はそうそういない。俺も覚えるのには一苦労したくらいだ」
生徒は愕然とした。
「全部の術名を言えるんですか!?」
「いや、それならもっと簡単だ。専門で勉強すれば高等部時代でも覚えられると思うぞ? 俺の言っているのは、全属性の全術、全ての《魔導式》を覚えるまでだな」
彼の言っているような技術を持っている人間は、それこそこのミスティルフォード広しとはいえ、数える限りしかいないだろう。
「この技術を覚えると、対術者戦でかなり有利になる。導力を精製する時に発生する魔力で規模を読み、作られていく《魔導式》からその正確な順列を割り出す。早ければ、半分もできていない内に相手が何を使おうとしているのかが分かるわけだな。そうなればかなり動きやすくなる」
善大王は唖然としている生徒達を見て笑い、軽い冗談のように快闊な声を上げた。
「ま、専門にやるとしても全部覚えるのはちょっと馬鹿げているな。仮想敵──たとえば闇属性の術全てを覚えるだけでも、俺の言ったような対策ができるわけだ」
「手が読まれやすいのが弱点ってことですか?」
「そうだ。だが、これとは反対に、ほとんど手を読めない術も存在する。それが、《魔技》だ」