8x
──水の国、中部にて……。
「それにしても、隊長様は相変わらずって感じだねぇ」
「……」
隊員達は皆閉口しており、アカリのお調子者な発言に返す者はいない。
そんな湿っぽい空気が嫌になったのか、彼女はフンッ、と鼻で笑った。
スワンプから移動を開始し、もうずいぶんな日数が経過していた。
幸い、魔物や正規軍に襲われることはなく、ここまでの道を予定通りに進めている。ただし、その予定通りが決して最良といえないのだから、アカリとしても悩ましい。
部隊長ディードは未だ意識を取り戻さず、だからといって死亡しているわけでもない。いつ命が終わってもおかしくないという状況だが、そこは仕事人として最低限の処置は行っていた。
それは愛着などではなく、単純な利害での行動。隊長が死すことになれば、ここまでの契約を反故にされる可能性は高い。
「(隊長様が死にさえしなけりゃ、収支はプラスなんだけどねぇ)」
口でいうのは簡単だが、それを遂行するのはとてつもない困難を越えなければならない。
懸念を取り除くであろう要因として、寝たきりの隊長、そして代理の隊長となったバロックを見つめる。
「(ビリビリ姫はどーにも、この隊長様とおっさんが気になるらしいけど、それだけで通してくれるかは怪しいところだねぇ。あの善大王が余計なこと言ってたら、まず間違いなくおしまいさね)」
彼女はこの帰還作戦が、困難で危険に満ちたものだと理解していた。であっても、彼女の心身には焦りは見られない。
「(っても、危なくなりゃこいつら見捨てりゃいいだけのことさ。ラグーンからしても、あたしのような優秀な駒は捨て置けないだろうしねぇ)」
これこそが、《不死の仕事人》に安堵をもたらす要素だった。
自分の力に絶対の自信があるからこそ、何をやっても地位が揺らぐことがないと確信できるのだ。
そして、彼女は人が持つ情──教会の教義によるものといえる──を軽んじており、それによって足を引っ張られることもない。
幾多の修羅場を駆け抜け、そして生き延びてきた時点で、その考えはアカリに合致していたと言えるだろう。
「バロック様」
姦しい女の声ではないと気付き、副官だった男は外気と触れることも久しい口を開き、これに応じた。
「なんだ?」
「……通信です」
「通信だと? 誰からだ」
「……それが、第一部隊からと」
この声は部隊の全体に行き届き、枯れ木のように生命を乏しくしていた男達は、一斉に生気を取り戻した。
「第一部隊!?」
「どんな通信だ!」
「カッサード将軍が来てくれたのか?」
将軍という職は公式の名称ではないのだが、あの勇猛果敢な闘士はその圧倒的なカリスマと戦闘力から、このように呼ばれているのだ。
そして、第五部隊に配属された者の多くが第一部隊の出身であるというのだから、この通信がもたらした希望というのは計り知れない。
「……はい、ヴァーカンですね。分かりました」
通信兵は聞こえてくる音に耳を傾け、周囲からの熱気さえも跳ね除けるように、冷静に確認を行っていた。
「分かりました。第一部隊は現在、火の国ヴァーカン周辺に陣取っているとのことです」




