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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
685/1603

7

「ところで、話は変わるのだが……この近くに闇の国の連中がいるって聞いたんだが、それは事実か?」


 善大王はフィアから聞いたことを冗談と一蹴せず、一応の確認を入れた。


「……どうでしょう。少なくとも、周囲で被害が出ている街などはありませんが」

「何か気掛かりでもあるのか?」

「いえ、我々も自分の領地を守るのが精一杯で、あまりよそに目を向けていないんですよ。ですが、闇の国が攻めてきたとあれば、噂は届くはず」

「ま、そりゃこんな時期に巡回なんてしていられないよな」


 理屈から考えれば、アリトには怠惰な要素はまったくなく、むしろ堂々といない(・・・)と断言してもおかしくない部分だった。

 しかし、彼はそうしなかった。真面目で、注意深いといえば分からなくもない性質だが、それにしては敏感すぎる印象を与えている。


「(思い当たる節がある……ってことかもな。信頼しないわけじゃないが、実際に見に行ったほうがいいかもしれない)」


 彼はかぶりを振ると、若き隊長の顔を見つめた。


「ところで、だ」

「……はい」

「今日の宿、この城を使わせてもらってもいいだろうか?」

「……」

「おっ、いいねー」


 ワガママな姫は中身の軽い頭で、善大王の如く軽口を叩いていた。


「もちろんですよ。善大王様ほどのお方を軽く扱っては、カーディナルの名折れです」

「やったー!」

「うむ、感謝する」


 もとよりアリトに警戒をしていないフィアは、それこそ組織と疑っていた事実さえ忘れているかのように、無邪気に喜んでいた。

 善大王はというと──未だ完全には信じておらず、誰も見透かせぬ心の奥底に疑心を潜ませ、表層ではいつもどおりの軽い調子を保っていた。


 善は急げと案内された二人は、光の国とは比べ物にならない豪勢な部屋に足を踏み入れた。

 飾られている美術品は全盛期の水の国で作られたものと思われ、野蛮な印象の付きまとう火の国とは思えない──それこそ美術館の一角のような装いとなっていた。

 もちろん、生活環境としても優れており、衣食住の機能が十二分に備え付けられている。外見を重んじる貴族と、合理を追求する商人の性質が合わせられたような部屋だ。


「何か御用があれば、気軽にどうぞ」

「おう、悪いな」


 決まり文句を残して去っていくアリトに、フィアはお辞儀をしていた。どうにも、コアルという共通点が存在するからか、想像以上の愛着を抱いたらしい。


「果物もパンもあるよ!」

「手の早いことで」


 彼の言葉の意味が分からなかったのか、考える時間を稼ぐようにりんごを齧り始めた。


「……手際がいいってこと?」

「そうだな。客の対応もきっと慣れているんだろう……それと、手が早いのはお前のことも言っているんだが?」

「もご……」


 咄嗟に食すのを止め、ごくりと飲み込んだ。


「まったく、一応は調査で来てるんだぞ? それに毒でも入ってたらどうする」

「え……」

「いや、そんなことはないだろうから安心しろ。ってか青ざめすぎだろ」


 毒のりんご、というのはあまりにも不吉な並びだったらしく、事実以上の恐れを抱いてしまったようだ。


「確認したいんだけど、ライトはアリトさんのことは信じてるんだよね?」

「ああ、知り合いと似ているというのは、どうにも判断能力を鈍らせる」

「……難しく考えなくていいんじゃない? コアルさんがいい人っていうくらいだし、きっといい人だよ、うん」


 あまりに考えなしな発言──しかも胸を張っている──に、彼は理論などを越え、ただ単純に彼女を愛らしく思った。


「ばーか。フィアはシンプルすぎるんだよ」

「だめかな?」

「いや、悪くない」


 頬を紅潮させる少女を見ながらも、彼はすぐさま状況の分析を開始した。ついでに、説明を倍増させないよう、話しながらそれを行うことを決めたようだ。


「──アリトの話に戻るんだが、あいつは俺の知り合いに似ているんだ」

「うん。さっき聞いたよ?」

「だが、そいつはかなりの──それこそ、俺が引くレベルの信者だったんだよ。神の為に奉仕することが生き甲斐みたいな……まぁトンデモなやつだった」

「教会の人?」

「そっち関係の貴族だったらしいが、信徒側だったことは間違いないな」


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