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──カーディナル官邸、客間にて……。
「率直に聞きたいんだが、お前はどういう意図で動いているんだ? フレイア王家からの評価は、正直よくないと思うのだが」
相も変わらずな実直さで向かう善大王だが、当然ながら思惑は存在していた。
「私は首都が対処に負えない問題を、王の臣下として解決しているだけに過ぎません」
「……なるほどな」
「ライト、この人はいい人だから疑わなくてもいいのに」
またもや失言をするフィアに、善大王どころかアリトも笑みをこぼした。もちろん、二人のそれはまったく意味の異なる反応だったのだが。
「疑わしいとお思いになるのももっともです。私の行動は常に利他的ですからね」
「それを自称するか」
「自他ともに認められているつもりです」
「(さっきの真っ直ぐさもそうだが、こいつは相当に自身に溢れているらしいな)」
彼は良くも悪くも、アリトという男を高く評価していた。神への信仰と正義の遂行という、少しばかりの差はあれども、この風変わりな男はどことなくディックに似ていたのだろう。
そんな相手に対する挑発行為の真意は、つまるところ化けの皮がはがれないかどうかの確認であった。
もしここで揺らがない人間であるならば、かつて将来を嘱望した部下に近い存在であることが証明されるのだ。
結果からいえば、当初の読みは的中していたといえる。
「しかし、それは善大王様も同じことではありませんか?」
「俺がか?」
「はい。聞くところでは、善大王様は水の国と雷の国の戦いを止めたという。それであって、報酬らしい報酬を受け取ったとも聞かないのですから、私と同じく他者の為に動いているのかと」
この情報はいまやそれなりに広まったものであり、無関係を決め込んでいた砂漠の民でさえ、それを知る者はいる。
つまり、組織との繋がりに関しては強い材料となりえないのだ。
「どうだろうな……まぁ、遠巻きからみてりゃあ俺のやったことはまさしく善っ! って感じだがな」
「別の意図があると?」
「とりあえず戦争終結が当面の目標だな」
ここにきて、若き隊長は黙り込んだ。
それまでの朗らかで好青年風な態度は一変し、気掛かりが増えたといわんばかりに、表情は固い。
「……変か?」
「いや、そういうことではありませんよ。私は戦争が終わるのを、ただ待つしかないと思っていました。そんな中、あなたは自分から終わらせようとした──私では考えもつかなかったことですよ、さすが善大王様です」
「そう褒めるな。調子に乗る」
「ご謙遜を。とても客観的な目をお持ちなようで」
二人の会話を黙って──一度は口を挟んだが──聞いていたフィアだが、どこか奇妙な違和感を覚えていたらしく、善大王に向かって意思を送った。
「(ライト、なんか楽しそう)」
「(こいつと話していると、部下を思い出してな。自然と気が緩む)」
「(私と話しているときはそんなことないのにね)」
「(そりゃ、お前みたいなアホ姫は、ちゃーんと目を光らせてないと何するかわからないからな)」
常に気を掛けられているのだと感じ、一度は安堵するフィアだったが、すぐにアホ姫という余計な単語に気づいてしまった。
ただし、失言には彼女なりに気を遣っているのか、頬を膨らませるだけにとどめていた。




