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──火の国、カーディナルにて……。
「頭がたかーい! 我は善大王であるぞ!」
妙に増長しているが、これは善大王本人である。そして、常に知略をめぐらせる彼が無意味にこのような行動を起こすことはなかった。
門番の兵は困惑したような様子を見せ、「しばし待たれよ」とだけ言い、一名を門の先へと進ませた。
善大王もなかなかに意地が悪く、最初から手の甲を見せればそれで済むのだが、あえてそれをしていない。これでは番兵も確認を取れる人物──おそらく領主──に問わなければならないのだ。
「(ライト、なに考えているの?)」
「(いやなに、ここの新領主様の出方を窺おうとな。ついでに、ウォウルっていう俺の知ってる方だったら、間違いなくかなり待たされる)」
「えー……この暑い中で待つの?」
「善大王を騙る人物だったならば、避難してきた者達にも危険が及ぶのだ。我慢してもらおう」
兵に返答を打たれ、フィアは反省したように縮こまった。
「(不満を言うにしても、小声で言え。普通に喋ったらそりゃ聞こえる)」
「(うー……ごめんね)」
「(反省すればよし。……それに、そこまで待たされないだろうしな)」
アホ毛がクエッションマークを描いた瞬間、両開きの門は完全に開け放たれた。
「確認は取れたみたいだな」善大王は声を張り上げて言う。
「はい! 我が主が門まで迎えに出られぬ無礼をお許しを」
「いや、構わんさ。こっちも意地悪だったからな──よし、フィア戻るぞ」
一つ前の疑問が消化されずに残留しているのか、首を傾げたまま馬車へと戻った。
カーディナルの目玉は、火の国とは思えない程に発展した商業都市部分にある。景観を考慮した町というのは、この砂漠地帯ではなかなかに珍しい。
火の国ではほとんどの住居が三階を越えることがなく、店でさえ一軒家や帆布で作られた露天の形式を取っている。
その点、この町は水の国などと同じように高層の傾向があり、領地内を最大限に活用するかのように、町並みも整然と並んでいる。
「なんか別の国に来たみたいだね」
「そりゃ、この国で貿易重視をしているくらいだ。よそからの来客が不便しないようには、できてるんだろうよ」
馬車は大通りを進んでいくが、馬車道も整備されているからか、のんきに周囲を見渡す余裕も生まれていた。
その上、戦時中だというのに他国のものと思われる馬車と幾度もすれ違い、人や金の流れが盛んになっているのが一目でわかる。
「(私兵団がいるからといって、ここまで人が集うものか? 難民を引き受けているお人よしということは分かったが、他国の者までもが来るとなると……魔物をどうやって退けている)」
彼の疑問は一極に集中していた。
立地によって、魔物や敵国の軍に襲われていないという節もなくはないが、それにしても魔物の出現がゼロということはありえない。
一国でさえ、その最初の接触時には凄まじい被害を出したという魔物を相手に、ただの私兵でどうにかなるとは考えがたい。
つまり、魔物を退ける何かしらがこの都市には存在する。その何かしらとはつまり、組織に繋がる何かなのではないか、というのが彼の推論だった。
組織の戦力が未知数であるのは、彼がまだ本格的に衝突していないからに他ならない。
組織との二連戦を余儀なくされたティアなどについては、相手がどれほどまでに凄まじい戦力を有しているのかを、正しく理解していることだろう。
「(だが、ハーディンの例もある。この国に組織の実験体がいるとすれば……いや、そこまでの力を持った実験体はいないか)」
それがあまりに常識から逸脱している上、前例のハーディンでは魔物に対抗しうる戦力として、不足が多いという知識が彼の思考を阻害した。
アカリという、特異な実験体を詳しく知らないが故の考えだった。




