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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
680/1603

2n

 ──天の国、ビフレスト城にて……。


「(まさか、ここに来てしまうとはな……宰相が如何に手を回していたか、想像するに難くない)」

 戦いの影響を全く受けていない、完全無欠な城を一別し、ダーインは歩みを進めた。


 天の国は属性の面からして、選ばれた人種の集う国である。故に、誇り高さは光の国のそれを上回る。

 そのような地に足を踏み入れようとすれば、当然ながら長ったらしいやり取りを交わすことになり、最悪の場合は時間だけかけて断られることもあるという。

 そんな天の国の関門のすべてが、今回は一切機能しなかった。最終関門でもある入国でさえ、軽い挨拶一つでおしまいというのだから、もはや障壁は存在しない。


「(……であるならば、もはや決着は付いているということか。私を取り込む必要性を感じないが……それは考えないようにしよう)」


 誰が向かっても同じといえども、相手は天の国の王。こちらも相応な人物を用意しなければ、無礼というものである。

 これがもし正規のやり取りであるならば、残り二つの派閥の主を寄越せばよかったのだが、シナヴァリアの手札は一枚しかなかった。


 長い廊下を歩きながら、彼は頭を働かせる。

 既に勝負が決しているからといって、適当に会話を行って終わりということではないのだ。

 この場で行うのは正式な同盟締結である。それを警戒していた神皇派は今頃、国で待機している宰相の足止めを考えていることだろう。

 これこそがシナヴァリアの狙い。最後の最後はあえて動かず、本命を通過させる為に囮となる。これにより、気付いた時には既にすべてが完了するのだ。


 国を救う為という大義は存在するが、やっていることは完全な騙し討ち。民や貴族に問うこともなく、勝手に話を進めようというのは正道に反する行動だ。


 ダーインは数々の事情を理解しながらも、最後の一歩を踏み出した。彼は正しさを重んじる正統派の頭首であると同時に、ライトロードの存続を是とする男だった。

 扉を開け、謁見の間へと進むと、この国の主であるビフレスト王が待ちかまえていた。

 玉座の前で立っているのは、座して穏やかにことを進める気がない、という意思の表れだろうか。


「そちらは宰相が来ると思っていたが、どうやら読み違えたらしい」

「ライトロード軍、第三位司令ダーイン……どうぞお見知りおきを」

「話は聞いている。しかし、シナヴァリア(ぼう)はライトロードの根にまで浸食を進めていたとは驚きだ」

「……宰相と面識がおありで?」

「昔なじみのせがれという話だ。あやつに地位を与えるなどという酔狂の結果、こちらの国まで掌握されたというのだから、なかなかに愉快」


 本題に移らないどころか、ビフレスト王は静かに、だが確実に怒りを露わにしていた。

 どうにも、天の国の大部分が彼の方針に協調していることに気付き、それで機嫌を悪くしているらしい。全く知らなかったわけではないにしろ、破竹(はちく)の勢いで進展されたとあれば、これを防ぐことは叶うまい。


「不服ですか」

「いや、こちらとしては好都合だ。ケースト大陸内で結束が生まれたとなれば、世界の模範となる。至極私的な意見としては、軍の運用頻度を下げられる」

「利害はこちらと同じ、ということですか」

「坊主に先んじられたのは気に食わぬがな……あやつが天の国の歴々(れきれき)を説き伏せたことで、安心して応じられる。それでは、早急に進めよう」


 天の国も、状況でいえば光の国と同じだった。

 ビフレスト王はそれを理解した上で、不可能だと考えていた。いや、善大王が大権を行使すれば、それが可能だと見ていた。

 だからこそ待ちに徹し、早期の同盟締結を避けていた。


 災害に抗うべく、他国と協力するといえば誰もが協調しそうなものだが、その災害は軍によって退けられるものである。

 その国に住まうものであれば、誰もが自分を守ることを優先したがる。協力すれば、自分を守る分のリソースが他国に吸われると考えるものさえいる。

 そうした保身主義は別段珍しいものでもなく、戦いを知らない者ほどその傾向が現れる。

 天の国も光の国も、結局のところこうした層が厚く、突き崩すことは困難だった。シナヴァリアが金というシンプルな力を用いて、臆病風を鎮めてしまったからこそこの場が生まれたのだ。


 これが最善だったかどうかはともかくとし、かの冷血宰相は論理的不可能を覆したのだ。



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