先へと導く者達
──火の国、馬車の車内にて……。
「で、どういう話になってるの?」
「カーディナルっていう都市に向かうことになった。ついでに、ミネアの口利きでこの馬車を出してもらえたって話だ」
「……それって、ライトがミネアを口説いたってこと?」
馬車の中、フィアは途轍もなく不機嫌そうにそう言った。
本件において、彼女は完全に蚊帳の外だったのだ。スケープとの接触についても、二回目からは異様に干渉されたことも相成って、機嫌の悪さは最高潮に達しているといえる。
「フィアが時間稼ぎしてくれたのはありがたいんだぞ、ここだけの話」
「えっ?」
「俺はあいつが怪しいと思っていた。組織に連なっているかどうかはともかくとして、俺の話をあまり聞かせたくはない相手だった」
「……女の子じゃないから?」
「……ああ、俺は幼女以外は信用しないからな。それに、ああいう女の魅力を前に押し出している奴に、ろくな奴はいない」
女性が苦手な男の言い分だが、彼の場合はそうとも言い切れない。
常にそれなりの立場を持っていた彼の前には、幾度もハニートラップを仕掛ける女性が現れていた。
美人局以外にも、貴族が彼を買収すべく差し向けるという事態もあったが、それらはすべて無意味に終わっている。
それもそのはずだ。彼は少女にしか興奮を覚えず、特に純粋な少女を好むという奇抜な性癖を持っていたのだから。
「じゃあ、そういう魅力がない私は最強ってことだよね?」
なぜか胸を張っているフィアに一瞥を向け、善大王は黙って視線を元の場所に戻した。
「えっ、なんでそこで無視するの?」
「いや、なんか面倒くさそうだと思ってな」
「いけず」
「カーディナルの前情報が限られる状態なんだよ。少しは集中力を蓄えておかないとだ」
そう言いながらも、彼はぶう垂れる相棒を愛らしく思い、嗜虐的興奮に駆られていた。
彼は少女の色々な顔を好んでいるのだ。その小さな体で考え、思っているであろう浅はかな行動の数々を愛おしくおもい、常々愛でているのだ。
ただ、こうして一人の少女にその愛情を向け続けるというのはとても珍しい。
彼はどのように素晴らしい少女と出会おうとも、それこそ、どのような喜びであっても、限られた時間で魔法が解けてしまう。
そんな、悪く言うと飽き性な彼が四年近く付き合っているのは、何かしらの奇妙さを感じざるを得ない。
「ねぇライト」
「なんだ?」
「……ライト、ミネアと何もしてないよね?」
「当たり前だ」
「ならいいけど」
そこで話が途切れ、善大王の意識は目の前の目的に移っていった。
「(カーディナル……といっても、領主も普通のおっさんだったはず。ミネアの情報によると、若い領主がいるらしいが……組織に通じているとすればそいつか)」
これに関しては、例によって彼がミネアの思考から探り出した情報だ。若干ながら精度が悪くなっているのか、かなり曖昧な人物像となっている。
ただし、ここではまったく面識のない人物ということがわかっただけでも、十分な手掛かりだった。
「ねぇライト」
「なんだ?」
「ヴァーカンって知ってる?」
「カーディナルの近くにある場所だな」
「……あのスケープって人が言ってたんだけど、そこに闇の国の軍隊がいるんだって」
唐突に追加された情報により、善大王は頭を抱えた。
決して悪い報告ではなかったのだが、なにぶん間が悪かった。出発前に聞けていたならば、当人に出所を確認することもできたのだが、こうなってしまうとそれはできない。
「規模とかは聞いているか?」
「うーんとね、船で来たんだって。結構いっぱい」
「ざっくりだな……本当に」
「だって、私が調べたわけじゃないもん! あのイマワシイ女が言ったんだもん!」
「地味に忌まわしいとか言うな! ……いや、俺がさっき悪い風に言ったから、それに合わせたのか?」
明らかに何も考えていないといった間の後、フィアは頷いた。
「じゃあ、まぁそっちのほうにも行ってみるか。情報が正しいかどうかは行ってみれば分かることだしな」
「うん! それがいいと思う!」




