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予期せぬ発言に、それまで怒りの炎を燃え上がらせていたはずのミネアが驚愕を示した。
「いや、あたしだって何の疑いもなく言ってたわけじゃないけど……」
「ミネアの発言は完全な感情論だった。だから、それは払拭しておきたかった。だが、戦争を機に勢力を増した……ってのは、どうも前例に覚えがあってな」
「?」
彼は飽くまでも、冷静な状態での判断を重要にしていた。
カーディナルの者達とは未だ会ったことはなく、この戦争の最中にどのようにして規模を拡張していったのかさえ、分かり切ってはいない。
しかし、雷の国では国家の方針を決定する者の中に、二名もの内通者が存在していた。
特に、その一名が組織からの情報で地位を高めていったことは、既に裏付けも取れている。
もしもカーディナルが同様の方法で砂漠の民から信望を得て、フレイア以上に影響を及ぼせるようになっているとすれば、これは善大王が直々に行わなければならない駆除作業となる。
「ミネアには話しておくが、この戦争には黒幕がいる」
「黒幕……それってダークメアじゃ」
「それは敵とか、悪の枢軸って感じだ。俺の言ってる黒幕ってのは、裏から手を引く存在……敵というより、身内に潜む毒だ」
ここまで言って、ミネアは話を理解した。
「カーディナルにその疑いがある、ってことね」
「確信はない。それに聞く限りじゃ、とっても素晴らしい領主みたいだしな。まぁ、とりあえずは会ってから調べるさ」
「……こう言うのもなんだけど、たぶん悪い奴じゃないわ」
「ん? どういう風の吹き回しだ?」
相も変わらぬ軽い口調だが、ミネアは気にする様子もなく続ける。
「あたしの護衛についているトリーチって男、そいつはカーディナルの私兵団に配属されていたのよ。少なくとも、トリーチの話を聞く限りじゃ、そんなに悪い集団とは思えない」
「できれば、そのトリーチって奴とも話してみたいが……今は会えるのか?」
短い赤髪を揺らし、彼女は否定した。
「あいつは今、船の方に行っているわ。あたしは長らく戦った休憩として戻ってきたけど、あいつはまだ戦いっぱなし」
「そりゃ残念だ。しかし……」
彼は一息を入れ、続く言葉を吐き出した。「いい奴が黒幕と連んでいないとは言い切れないぞ」
「……かもしれないわ。でも、あたしはあいつの言い分を少しは信じているつもり。あんたに図星を突かれるまで、それを認めたくはなかったけれども」
「ま、そういうもんさ。じゃ、とりあえずそういうことだ。いい知らせ……でもないけど、何かが分かれば報告するぜ」
「フフッ、ありがとう……善大王」
「どーいたしまして」
面と向かって名前を呼ぶことの少ないミネアは、心の底からの感謝を表すように、彼の名前を用いた。
それは、ガムラオルスの時と同じであって、まったく違う心情からくる言葉だった。




