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「そうよ、カーディナルはこの戦争が始まってから、急激に頭角を現してきたのよ。そして、今ではフレイアよりも支持され、乗っ取られてもおかしくない状況になったわ」
「……まぁつまりだ、ミネアは格下相手が自分の国よりもいいことをしてるものだから、それが気に入らないってわけだな」
ここに来て、善大王は彼女が内に抱いているであろう本心を言い当てた。
そもそも、ここに至るまでの彼は飽くまでも聞き手としての対応を取っていただけにすぎず、必要な情報が揃ってしまえばそれを続ける意味はなくなる。
少女に優しい善大王であるならば、このまま聞き手として相手が満足するまで話を続けるが、少女を想う善大王はそのような誤魔化しは使わない。
「あたしが私怨でカーディナルを嫌っているとでも?」
「認めたくはないだろうが、それは事実だろ? ミネアの感情の揺らぎ方は、危機的な状況に焦っていると言うより、気にくわない相手の愚痴をこぼしている感じだった」
「……」
「それに、聞く限りではカーディナルのそれらは偶然で片づく話だ。まぁ、フレイア王があのていたらくなのだから、支持が傾くのも仕方がない」
「やっぱりあんたも、そんなことを──」
「客観的に考えれば、だ。フレイア王の今をみる限り、カーディナルは砂漠に住まう者達を助けて回っているんだろ? そりゃそうなっても仕方がない」
人心の必然を理解できぬほど、ミネアは子供ではなかった。
しかし、抜いた剣は収められない。カーディナルに向けた怒りを、ただの嫉妬で終わらせては名が廃る。
結局、彼女は面子に取り憑かれるばかりで、現実を直視できていないのだ。
「なら……ならさっさと火の国から出ていって」
「……まぁ、その予定だな」
激情に囚われた少女の顔を見つめながら、善大王は頭を掻いた。
「それと、火の国は水の国と雷の国、三国間での協定を結ぶことになる。そうなった時は、また、ミネアに会いに来るかもしれない」
「はぁ? フレイア王がそんなことするなんて……」
「俺も頑張ったんだよ。ここで具体的にミスティルフォード連合の一角という面を出しておけば、砂漠の民だって保身の王なんて思わないだろうよ」
軽口でとてつもないことを告げる男を前に、少女は俯いたままは肩を震わせ、小さな声を出した。
「……なんで」
「ん?」
「なんであんたはそんなことができるのよ。どうして、他国のことなんかに首を突っ込んでいるのよ……どうして、たった一人なのにそんなことが……できんのよ」
今にも泣き出しそうなミネアを見て、《皇》は屈み込み、少女の涙を人差し指で拭った。
「ミネアは十分に頑張っているさ。俺の方が結果を出しているようにみえるのは、俺がそうなるように仕向けているだけ……努力の量はそっちの方が上かもしれない」
「……ただ衰退していく火の国を見て、何もできていないというのに?」
「そりゃ王様の失策だ。それについては、俺がこうやって軌道修正している……ミネアの努力が実る日はきっとくるさ」
これまでにない頼り強さに、火の国の最終兵器である少女が安堵した。
ただ一人の男の言葉、行動、立ち振る舞い、それらが嫉妬などの負の感情に囚われていた彼女を解放した。
そう、今の彼女にとって本当に必要だったのは、言葉による同調などではなく、行動で事態を打開できる存在だったのだ。
「それとミネア」
「えっ?」
「ああは言ったが、俺は独自でカーディナルの調査に向かう」




