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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
676/1603

15

 静まった部屋の中、ミネアは少し迷ったように視線を逸らすと、座ったばかりの椅子から立ち上がった。


「お茶でもどう?」

「ン、ありがたくいただこうかな。ミネアの淹れるお茶はおいしいからな」

「もう……じゃあ、ちょっと待ってて」


 台所に立ち、茶葉の入ったガラス瓶を値踏みするように見つめた後、右隣の高い茶葉が入った瓶を取った。

 仔細な動作の一々が、善大王の中で別の情報に変換されていき、彼女の心理状態をより明確に導き出していく。

 もはや超常能力に等しいとされる彼の読みだが、そこに幾許(いくばく)かの要素を交えることで、その精度は予知や透視の域に到達する。

 謂わば、すべての観察を含めての時間経過によって完成していく読みとでも言うべきか。


「(かなり心細い状態……その上、話す内容はかつて誰かに話している。わざわざ茶を淹れようとしたり、高い茶を選んだり……その全部でよくない結果だったってことか)」


 師事していた時代の影響で、ミネアと善大王がさほど悪い仲でもないことは、当時から明らかだ。しかし、だからといって再会の喜びだけで有頂天になることはない。

 姉のコアルやお淑やかなシアンと違い、彼女はおおざっぱな節がある為、客人相手に気を使ったりはしないだろう。故に、この行為は不可解さの固まりだった。


「(とすると、ヴェルギンやガムラオルスがダメだった例か。師匠と弟弟子……なかなかにつらいところだな)」


 ガムラオルスについてだが、これはスケープの口から出た内容、そしてその時のミネアの反応から算出されたものといえる。

 あの奇抜な女性(スケープ)が本当の弟子だとすれば、ガムラオルスの分を含め、家具などが一つ余計に増えていなければならない。それがない時点で、既にこの家を出ていることが分かる。


「はい、どうぞ」

「おっ、悪いな。いただくぜ」


 出されたお茶の味に関しては、可もなく不可もないというもの。紅茶の名産地である光の国に住まう善大王が評価すれば、こうなるとも当然である。


「うん、うまい」

「そ? よかった」


 世辞のように見えない評価に、ミネアは微笑を浮かべた。この点においては、相手の機嫌を取りにいった彼女が、逆に機嫌をよくしてしまったともいえる。

 こと心の駆け引きに関して、彼は一歩先を行っていた


「なにか相談か?」何気なく声を漏らした。

「……そんなんじゃないけど」

「まぁ、恋の話とか、そういう浮ついた話題じゃないことは分かるが」


 いつものように少女の心を見透かした発言は、彼女から緊張感を取り除く効果をもたらした。


「やっぱり、あんたにはお見通しね」

「ま、そういうことだ。気にせずに話してくれ」

「……カーディナル、という都市が怪しいのよ」


 具体的な単語がいきなり飛び出し、内心で彼は驚いていた。


「どう怪しいんだ?」

「火の国に軍がないことは知っているわね? あの都市は、戦争が始まる前から私兵団を持っていたわ……」


 そこで間を開けるが、善大王は彼女の予想したような常識的反論を述べず、黙って頷いていた。

 ミネアは意表を突かれ、抜きかけていた剣を鞘に納めざるを得ないような状態になった。彼女としても、ただ備えていただけ、という部分に関しては否定するところではなかったのだ。


「ごほん、その私兵団は戦場でも活躍を収めたわ。軍の一部に取り込んだはずだったのに、次第に臨時の出兵という扱いになって、一時的に脱することになったのよ。そこからは、好き勝手に動いているわ」

「好き勝手? 何をしたんだ」

「……それは、それは色々よ。そのあと、ガーネスの掃討作戦を命じたはずなのに、そこの人間を自分の都市に組み込んだのよ」

「確かに勝手だな。国が掃討を命じたってことは、十中八九盗賊でも潜んでたんだろうし、身内に引き入れるのは早計だな」


 具体性の欠いた部分には踏み込まず、その上で彼はガーネスの問題を言い当てた。

 それはまさしく、ミネアにとって認めてほしい部分だけを理解し、そうでない部分をあえて除外するような返答だった。

 しかし、彼女は良くも悪くも感情に囚われていた。そうした論理的な違和感に気付かず、むしろ心地よい聞き手の存在で、より強い高ぶりを覚えた。



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